2018.07.25 議会運営
第60回 被選挙権に係る資格決定について
明治大学政治経済学部講師/株式会社地方議会総合研究所代表取締役 廣瀬和彦
被選挙権に係る資格決定について
A市議会において選挙が行われ、新たな議会が構成されたが、B議員が居住しているとされる住居の水道や電気の使用量からA市に居住実態がないのではとの疑惑が起こった。この場合においてA市議会としてとりうる対応はどのようなものであるか。
議員は地方自治法(以下「法」という)127条1項に基づき、①地方議会議員の被選挙権を有しない者であるとき、②法92条の2の兼業禁止の規定に抵触する場合、議員の職を失う。
【法127条】
普通地方公共団体の議会の議員が被選挙権を有しない者であるとき、又は第92条の2(第287条の2第7項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定に該当するときは、その職を失う。その被選挙権の有無又は第92条の2の規定に該当するかどうかは、議員が公職選挙法第11条、第11条の2若しくは第252条又は政治資金規正法第28条の規定に該当するため被選挙権を有しない場合を除くほか、議会がこれを決定する。この場合においては、出席議員の3分の2以上の多数によりこれを決定しなければならない。
①の地方議会議員の被選挙権を有しない者を考えるに当たっては、被選挙権を有する者について考える必要がある。
すなわち、被選挙権を有する者とは、公職選挙法(以下「公選法」という)10条1項3号及び5号のとおり、(ア)都道府県議会議員はその選挙権を有する者で年齢満25年以上の者、(イ)市町村議会議員はその選挙権を有する者で年齢満25年以上の者をいう。
そして、選挙権を有するかどうかの要件は(ⅰ)積極的要件(選挙権を有するために必ず必要な要件)、(ⅱ)消極的要件(選挙権を有するために1つでも該当してはいけない要件)に分けられる。
【公選法9条】
② 日本国民たる年齢満18年以上の者で引き続き3箇月以上市町村の区域内に住所を有する者は、その属する地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権を有する。
まず選挙権における積極的要件とは、公選法9条2項のとおり、①日本国民で、②年齢満18年以上の者で、③引き続き3か月以上市町村の区域内に住所を有する者に該当することである。
①の日本国民であることの要件は、憲法10条の規定に基づく国籍法により定められているとおり、日本国籍の取得は出生又は帰化による必要がある。
②の年齢要件は、憲法15条3項により成年者による普通選挙が保障されていることから、民法4条で年齢満20歳以上の者が成年であるとされているが、公選法9条2項で日本国民たる年齢満18年以上の者で引き続き3箇月以上市町村の区域内に住所を有する者は、その属する地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権を有することから18歳となる。
③の「引き続き3か月以上市町村の区域内に住所を有する者」の要件の例外として、公選法9条3項及び4項に規定のとおり、(ア)公選法9条2項の規定によりその属する市町村を包括する都道府県の議会の議員及び長の選挙権を有する者で当該市町村の区域内から引き続き同一都道府県の区域内の他の市町村の区域内に住所を移したものは、公選法9条2項に規定する住所に関する要件にかかわらず、当該都道府県の議会の議員及び長の選挙権を引き続き有すること、(イ)公選法9条2項における市町村には、その区域の全部又は一部が廃置分合により当該市町村の区域の全部又は一部となった市町村であって、当該廃置分合により消滅した市町村(この項の規定により当該消滅した市町村に含むものとされた市町村を含む)を含むこと、がある。
次に、選挙権における消極的要件とは、公選法11条に規定のとおり、①禁鋼以上の刑に処せられその執行を終わるまでの者、②禁鋼以上の刑に処せられその執行を受けることがなくなるまでの者(刑の執行猶予中の者を除く)、③公職にある間に犯した刑法197条から197条の4までの罪又は公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律1条の罪により刑に処せられ、その執行を終わり若しくはその執行の免除を受けた者でその執行を終わり若しくはその執行の免除を受けた日から5年を経過しないもの又はその刑の執行猶予中の者、④法律で定めるところにより行われる選挙、投票及び国民審査に関する犯罪により禁鋼以上の刑に処せられその刑の執行猶予中の者に該当しないことである。
本問では、以上挙げた要件のうち、選挙権における積極的要件の③引き続き3か月以上市町村の区域内に住所を有する者に該当するかどうかが問題となる。
ここで、③における住所とは、民法22条のとおり、各人の生活の本拠をいう。
【民法22条】
各人の生活の本拠をその者の住所とする。