2018.06.25 議会運営
自治体議会における運営手続──条例と規則の切り分けを
大津市議会の取組み
この点を見抜いた大津市議会は、「会議規則」を「会議条例」に改変するなど議会例規全般の見直しを行っている。市民権利の保障について、憲法で国民に保障されている権利である「請願」に関する要件事項が、市民の直接請求によって改正可能な条例でなく、議会でしか制定改廃できない規則で定められていることは、憲法16条(「何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない」)の立法趣旨に鑑みると適当ではないとし、また、「秘密会の実施」及び「議会内の秩序保持」に関しても、市民に拘束力を及ぼす規定を、本来、議会内部のルールを定めるべき規則に置くことについても同様であるため、これらを「会議条例」に規定することとした。
大津市議会会議条例の1条は、「この条例は、地方自治の本旨に基づき、地方自治法(昭和22年法律第67号。以下「法」という。)第120条に規定する会議規則の内容を条例において定めることにより、議会に関する市民の権利を保障し、市民に開かれた議会の運営を図ることを目的とする」としている。従来の内部事項としての「会議規則」は、この条例を受けて「会議規程」で規定している。それは、「特異な法体系」の解消も必要と考えたからであった。
地方自治法には、直接に議会の内部事項に規制を加えているものがある。例えば、議長の委員会出席権(105条)、主要な委員会の設置・所管(109条)、議員の議案提出要件(112条)、開議請求要件(114条)、修正動議提出要件(115条の3)などである。このうち、109条は「普通地方公共団体の議会は、条例で、常任委員会、議会運営委員会及び特別委員会を置くことができる」とし、各委員会の任務を規定した上で、その9項で「前各項に定めるもののほか、委員の選任その他委員会に関し必要な事項は、条例で定める」としている。すぐ気づくことは、120条で議会は会議規則を定めるとしながら、委員会事項は条例で定めるとしていることである。
大津市議会は、地方自治法の下に、議会審議の主体である本会議については「会議規則」で、その下位審査機関である委員会については「委員会条例」で規定されるなど、一般的な法体系(法─条例─規則)と異なる法体系となっているが、自治体議会に関して独自の法体系とする必然性に乏しく、市民にとっては分かりにくいため、「会議条例」の下に議長告示としての「会議規程」を置く構成に改めたのである。
条例は、議会それ自体の意思ではなく、自治体としての団体意思の発現である。したがって、今まで議会規則としてきたものを条例事項にするということは、手続的には、条例は首長への送付が義務付けられているため、形式上、首長による拒否権・再議要否の審査に付された後に、公布手続がとられることになる。もし、その内容に問題があると判断されると、首長が一般的な拒否権を行使しうることになる。大津市議会の場合は、この点は争点化しなかったが、条例化の法制的意味合いを考えておく必要はある。その上で、住民の権利義務規制を規則で行っているような「時代遅れ」を正す必要がある。
大津市議会は、こうした改革の一環として、「機動的な例規運用」にも乗り出した。議会運営ルールは、一般的に「先例」や「申合せ」によることが多いが、これらは自治体のホームページで公開されている「例規集」に含まれないことから、市民がその内容を容易に知ることは難しかったため、これまで「先例」、「申合せ」で規定されていた内容を、自治体例規として公開する「会議規程」にしている。住民には分からない「先例」や「申合せ」の見える化の試みであり、開かれた議会運営の実現である。
自治体議会に関する運営の基準や手続は、地方自治法に定めがあるほか、各議会で定める「会議規則」などによっているが、ほとんどの議会では全国組織の自治体議会議長会のつくった標準モデルに準じているのが実情である。問題は、議会の内部事項であるにもかかわらず、住民の権利・義務に関する事項が「条例」ではなく「規則」で定められていることである。都道府県、市、町村の全国議長会及び全国の自治体議会は、議会の内部事項のあり方に関し検討し、条例と規則の切り分けを明確にすべきではないか。