2018.06.25 議会改革
小規模市町村の課題 ──『町村議会のあり方に関する研究会報告書』について(その4)──
無投票当選比率
『報告書』のⅠ「2 小規模市町村における議員のなり手不足」では、『報告書』の中心論点が提示される。具体的に「なり手不足」を示す根拠は難しいが、『報告書』では無投票当選比率を挙げている。特に、議員定数削減により、1団体当たりの平均議員定数が減少している、すなわち、分母が減少しているにもかかわらず、無投票当選比率が増大しているのであるから、より一層深刻だというわけである。
しかし、『報告書』はここで、「『町村』と一括りに言っても、その実情は様々」であるので、「真に問題が所在するのはどこなのか、見極める必要がある」という。上述のように、「小規模市町村」が問題であるという眼鏡で『報告書』が作成されている以上、「真に問題が所在する」場所は明確である。人口段階の小規模市町村こそが、「議員のなり手不足」になっている、とする。人口1,000人未満では64.71%、人口1,000人以上1万人未満では27.31%が、無投票当選比率となっている。高知県大川村が町村総会について課題提起を行ったことも、「小規模市町村における議員のなり手不足の深刻さを象徴する」としている(2頁)。
もっとも、単純にそのようにいえるかは、不明である。
第1に、一般に小規模市町村の方が大規模市に比べ、議員/人口比率は大きい。つまり、人口当たりの議員に立候補しようとする人数の比率は、通常は小規模市町村の方がはるかに高いのである。例えば、青ヶ島村では、人口165人に対し議員定数6である。仮に無投票であるとしても、議員/人口=0.0363636である。横浜市は人口370万人に対し議員定数86で、立候補者は128人である(2015年4月12日執行)。議員/人口=0.0000232、議員候補/人口=0.0000345である。つまり、横浜市議会選挙での競争率が高いということと、横浜市では議員のなり手が充分いるということとは、全く一致しない。小数点以下の0の数が3つ異なるように、3桁も横浜市の方がなり手不足なのである。
もし、大規模市で小規模市町村と同じくらいの比率で議員定数を増やせば、大規模市でもなり手不足が深刻化するだろう。逆に数字だけでいえば、小規模市町村でも議員定数を減らせばよいのであるし、実際にも議員定数削減をしてきた。結局、町村議会定数削減の限界点に、──それが定数3か定数6かはともかくとして──、到達しつつあるということだけである、
第2に、議員定数の小さい小規模市町村の方が、無投票当選比率は高く出やすいということである。定数6の場合に無投票を回避するには候補者7人が必要である。定数30(例えば、府中市議会)であれば、候補者35人に相当することである。しかし、候補者31人でも無投票は回避されるのであり、定数が多いということは、比率的に無投票を回避しやすく
なる。
第3に、定数6のところに7人目として挑戦するよりも、定数50(例えば船橋市議会)のところに51人目として挑戦する方が、心理的にはたやすいであろう。目に見える当選確率は、定数が大きい議会の方が、高いように見えるからである。
おわりに
以上、『報告書』の課題設定は、中長期的展望のもと、議員のなり手不足という問題が小規模市町村に集中的に存在するということである。問題が設定されれば、対策を考える必要がある。そのためには、問題を生み出す原因を解明する必要が出てくる。それは次回以降の部分である。
もっとも、上記の評論のとおり、必ずしも課題設定が適正であるとはいえないかもしれない。なり手不足という問題が存在するとしても、それが小規模市町村のみに集中的に現れているのか、それとも全自治体議会で多かれ少なかれ、それぞれの地域事情を反映しつつも、構造的・一般的・普遍的に存在しているのかでは、課題設定も処方箋も異なってこよう。
【つづく】