2018.05.25 議会改革
全国市議会議長会の会長コメント──『町村議会のあり方に関する研究会報告書』について(その3)──
「集中専門型議会」への懸念
『報告書』は、「集中専門型議会」と「多数参画型議会」という、「二つの新たな議会」を主眼として提言するものであり、『コメント』は、その提案に正面から所感を示す。
集中専門型は、第1に、「専業的な活動を行う議員が首長とともに市町村の運営に常時注力する」ものとして、「議会と首長の望ましい緊張関係の維持に障害とならないか」と懸念を示す。
第2に、「議会参画員との距離が狭まり過ぎ、却って多様な民意の集約に向けた議会内の合意形成を難しくしないか」という懸念が拭えないという。もっとも、この懸念は、その趣旨が今ひとつ明瞭ではないようにも思われる。議会参画員と議員との距離が狭いがゆえに、多様な民意が反映しにくい、ということであろうか。対等で自立した多数の議員がいれば、議員間の距離は相対的に遠いがゆえに、多様な民意が反映しうる。しかし、議会参画員は、それ自身としての民主的正統性を持たないので、議員に対して自立した存在として、住民の多様な民意を反映し得ないということなのであろう。
第3に、「専業議員を想定しながら、民間勤労者を含めた当面の有為な人材の確保策も不明瞭」として、結局、「生活に困らない年金生活者や資産家、自営業者など」が少数議員となるので、多様な民意を反映できないおそれがあるとする。つまり、専業を前提とすれば、他に職を持った人材は議員になり得ない。とすると、現在以上に、年金生活者・資産家・自営業者が過剰代表されるというわけである。
第4に、公務員の立候補退職後の復職制度の創設も検討されているが、「公務員の政治的中立が実質的に確保される現実的で実効性ある制度となるのか、十分な検討が必要である」とする。要するに、行政職員が議員になるときに、政治的中立性を確保することができるのかを、懸念しているのである。
「多数参画型議会」への懸念
多数参画型は、第1に、「従たる職務として非専業的に議会活動を行う議員によって担われる」議会であるため、「議員としての自覚の希薄化」とあいまって、「執行部への監視機能をはじめ議会全体の機能低下を招かないか、懸念される」とする。要するに、多数の人間が片手間で議会に関われば、それぞれが無責任に行動するため、結果的に議会の機能が低下するという懸念である。
もっとも、この逆の推論をすれば、集中専門型では少人数が専念して議会に関わるのだから、それぞれの責任感が増して、結果的に議会の機能が高まるといえるかもしれない。ただ、上述のように、仮に少数議員の責任感が増して市町村運営に専任すれば、結局、議員は首長と同じような人間となってしまい、執行部への監視ができなくなるというのが『コメント』の立場である。
第2に、「議会権限から契約・財産等に関する案件を除外することと議員の請負禁止を撤廃することをワンセットにすることを想定」する『報告書』に対して、「現行制度でも、すでに契約の締結、財産の取得又は処分に関する議会の権限が限定されているにもかかわらず、さらにこれを議会権限から除外するとすれば、執行部への監視機能が弱まるのではないか、危惧される」という。第1点目と同様、執行部への監視機能を重視している。さらに、「契約・財産等に関する案件の除外と議員の請負禁止の撤廃をバーターするような発想は、地方分権の潮流の中で、累次にわたり議会権限が拡充されてきたこれまでの政策に逆行する」ともしている。議会権限の縮小には批判的なのである。
また、第3に、「請負禁止は、地方自治体の適正な事務執行と議会運営の公正という行財政運営の基本原則を保障するための制度」であり、「撤廃してよいと簡単に結論できるのか」と問いかけている。「議員のなり手不足対策の観点から、議会権限を限定すれば請負禁止を撤廃してよい」かどうかは、「市町村議会の実情を踏まえて慎重な検討が必要」であるとする。請負禁止に関しては、議会側として、適正性・公正性の観点から、価値を置いていることが興味深い。
第4に、「議会の開催を夜間・休日が基本で平日昼間は年間数日と想定」する『報告書』に対して、「限られた審議時間で適切な処理が可能なのか」と疑問を呈する。さらに、「兼業議員のためだけではなく住民のために、本当に意義のある現実的な開催方法なのか」とする。要するに、兼業議員のための議会開催方法に偏して、住民のためを考えていない本末転倒な提言だということが、暗に示唆されているのである。
検討手法への違和感
『コメント』においても、「配布資料が欠けている研究会──町村議会のあり方に関する研究会報告書』について(その1)──」(本連載2018年3月26日号)でも触れたような、検討手続の問題点が指摘されている。「このような重大な提言について、当事者となる市町村議会からの意見聴取を後回しにするような実験主義的な進め方は、議会制度改革の手法として大いに疑問であることを指摘しておきたい」という、強い批判が述べられている。
しかも、「二つの新たな議会は、いずれにせよ議会の議決権の限定と議員の請負禁止の撤廃に関する部分を除いて、基本的に現行法と条例によって多様な対応が可能」とする。上述のように、議決権の限定も請負禁止の撤廃も、『コメント』は否定的である。不要有害なこの2つの点を除けば、実は現行法で可能であるから、結局、『コメント』の立場からすれば、立法は不要であるということになる。「これを立法によって議会権限の限定を含む規制の枠に押し込めるような方向は、議会の自主性・自律性を拡大してきたこれまでの政策と相容れない」とする。すなわち、「本会としては、十分な時間をかけて相当慎重に検討を深めるべき問題を数多く含む」とする(下線筆者)。
そこで、政府に対しては、「本報告書を踏まえ次のステージの検討が予定されているとしても、今後の検討にあたっては、地方自治の第一線の現場である市町村議会の意見を幅広くかつ真摯に聴取し、出された意見や指摘を重く受け止め、くれぐれも拙速に結論に至ることのないよう、強く要望する」と、くぎを刺す。
おわりに
このように、会長名での『コメント』ではあるが、最後のところに「本会」と表現されているように、組織としての所感でもある。そして、それは、『報告書』及び総務省に対する、かなり強い懸念であるといえよう
【つづく】