2018.05.10 政策研究
【セミナーレポート】インターネット投票の実現に向けて~諸課題と検討状況~
2018年4月18日、東京都千代田区の衆議院第2議員会館で「インターネット投票の実現に向けて―諸課題と検討状況―」(主催:インターネット投票研究会(湯淺墾道主査))というテーマでセミナーが開催されました。下記の国会議員や有識者の方々が登壇し、インターネット投票の実現を訴えるとともに、それらを進めるうえでの諸課題をディスカッションしました。会場は満席となり、インターネット投票に寄せる関心の高さがうかがえました。
<国会議員(50音順)>
浦野靖人(日本維新の会 衆議院議員)
柿沢未途(希望の党 衆議院議員)
鈴木隼人(自由民主党 衆議院議員)
中谷一馬(立憲民主党 衆議院議員)
牧山弘恵(民進党 参議院議員)
三浦信祐(公明党 参議院議員)
山下雄平(自由民主党 参議院議員)
<有識者> 湯淺墾道(情報セキュリティ大学院大学教授)
河村和徳(東北大学准教授)
<コーディネーター>
山田 肇(情報通信政策フォーラム理事長)
健全な民主主義を維持するための方策
はじめに、鈴木議員から「若者の政治参加検討チームによる総務大臣への提言について」と題する基調報告がありました。現在、20代の投票率が低下する中で健全な民主主義を維持するにはどうしたらよいか、若者の社会参画の機会をいかに作っていくかという問題意識のもと、インターネット投票の導入を推進する取組みを進めており、2017年12月に野田聖子総務相に提言を行ったことが紹介されました。インターネット投票の導入により、確実に若者の投票率が上がることが主張された一方で、課題としては。情報セキュリティやなりすまし投票の問題が挙げられました。また、インターネット投票を既に導入しているエストニアの事例を挙げ、投票の強要を防ぐため投票を何回でもやり直せる仕組みなどが紹介されました。
鈴木隼人衆議院議員(写真提供:政治山 by VOTE FOR)
超党派で進めるインターネット投票
次に、山田理事長をコーディネーターとして、「インターネット投票の実現に向けて」と題してセッションが行われました。登壇者の各議員や有識者は、低迷している投票率を向上させるために、一様にインターネット投票の導入には賛成で、導入後は特に山間部や過疎地域に住む高齢者や、障害者、海外在住者の投票環境の向上に期待を寄せていました。 一方、課題としては、セキュリティの問題やインターネットに慣れていない高齢者のマインドをどう向かせるか、導入時には既存の紙での投票と併存する形をとるのか、導入時のインフラ整備等によるイニシャルコストをどのように捻出するのか、秘密の保全性を確保するにはどうしたらよいか、選挙管理委員会側の意識の問題などが挙げられました。こうした課題に対して前向きな方策としては、自由意思による投票を担保するために、まずはコンビニや郵便局などの人の目がある場所でインターネット投票ができるようにしてみてはどうか、投票時にマイナンバーカードを活用してはどうかといった様々な意見が挙げられました。
セッションの様子(写真提供:政治山 by VOTE FOR)
選挙情報のオープンデータ化
また、もうひとつのテーマとして、「選挙情報のオープンデータ化」について議論が行われました。全盲の弁護士として活躍している大胡田誠弁護士からは視覚障害があっても、現在は、WEBページの読み上げ機能などにより、インターネットを活用することができることが強調されました。その上で、候補者情報へのアクセシビリティの問題が挙げられました。公職選挙法168条に候補者の情報を選挙管理委員会に文書で申請しなければならないと規定されていることにより、選挙公報は紙をスキャンしたPDFとなっており、そのため、インターネットの読み上げ機能が使えず、視覚障害者にとっては候補者へのアプローチが困難な状況になっているということが紹介されました。大胡田弁護士は、点字投票が世界で初めて浜松市で導入されたことに触れ、日本には様々な立場の人に配慮するバリアフリーへの精神的土壌があると信じ、投票環境が整備されることに期待を寄せました。
大胡田誠弁護士(写真提供:政治山 by VOTE FOR)
その後、妹尾正仁ヤフー株式会社政策企画本部長からは、2017年の都議会議員選挙と衆議院議員選挙(東京都のみ)において、視覚障害者がWEBページの読み上げ機能を利用して選挙公報の内容が聞き取れるよう、選挙公報をテキストデータ化して掲載するヤフーの「聞こえる選挙」という取組みが紹介されました。妹尾氏からは、これはたったひとつの取組みではあるが、健常者が気付いていない部分に光を当てることで、インターネットに関わる企業として未来をよくするために様々な挑戦をしていきたいと語りました。
会場では、リアルタイム質問ツールとして「sli.do」という、セミナーへの参加者がスマホやパソコンから質問やメッセージを運営側に投げるサービスを活用し質疑を行いました。自分の考えに近い質問には「いいね」ボタンを押すことができ、「いいね」が多くついた質問に対して登壇者が答えるという方法がとられました。多くの聴衆の前で質問するのが苦手という参加者にとっても気軽に質問を投げることができ、セミナーへの一体感ができていました。インターネット投票を推進するセミナーならではの取組みでした。
現在、総務省では、「投票環境の向上方策等に関する研究会」が開かれています。インターネット投票、電子投票に関する議論も徐々になされているようです。高齢者や障害者、洋上における投票、在外投票等、様々な立場の人の1票を活かすための取組みが制度化されることで、健全な民主主義が担保されます。今回のセミナーでは、インターネット投票と選挙情報のオープンデータ化という、誰もが投票しやすい環境を作り出すための有効な手法を議論し、制度化させるためにはどうしたらよいかという様々な提案が挙がりました。今後、さらに民主主義を担保するための視点から、議論が活性化されていくものと思われます。