2018.04.25 議会改革
第2回 議会の政策活動と政策情報の作成・公開──事業別政策調書の活用
3 議会基本条例の7項目の意義
前述の「8 決定の過程」は、非常に重要な項目であることから、もう少し詳しく解説します。
栗山町議会基本条例6条では、「町長による政策等の形成過程の説明」として7項目を定めています。これは、町長が議会に政策や計画を提案する際に努力目標として説明責任を課している条項ですが、全国の多くの議会基本条例も類似の条項を定めています。
栗山町議会基本条例6条が規定する項目は次の7つであり、事業別政策調書の「8 決定の過程」と整合する内容となっています。
① 政策等の発生源
② 検討した他の政策案等の内容
③ 他の自治体の類似する政策との比較検討
④ 総合計画における根拠又は位置づけ
⑤ 関係ある法令及び条例等
⑥ 政策等の実施にかかわる財源措置
⑦ 将来にわたる政策等のコスト計算
自治体によって多少の項目の増減はありますが、基本的には変わりません。さらに、栗山町議会基本条例7条(予算・決算における政策説明資料の作成)では、「施策別又は事業別の政策説明資料を作成するよう努める」と規定しています。各自治体の議会基本条例でも栗山町を参考に同様の規定が設けられています。同条には「事業別の政策説明資料」とありますが、この意味に気づかない議会が多いのが現状です。
北海道芽室町議会の議会基本条例12条(政策形成過程等)にも、栗山町と同内容の7項目が規定されています。芽室町では町長に説明責任を課すのではなく、議会が町長提案を含めて政策をしっかりと議論し、論点・争点を明確にするための規定となっています。芽室町議会が2012年頃に活用していた「委員間討議用(論点・争点)シート」では政策等の発生源などの8点を論点にしていましたが、これはまさに同町議会基本条例12条を具体化、実践化するための議会技術といえるでしょう。
しかし、多くの議会では議会基本条例に栗山町議会、芽室町議会と同様の規定を設けているにもかかわらず、なかなか活用できていないのが実態なのです。
神原氏が事業別政策調書の新版フレームの作成を思い立ち、当研究会が研究項目としたのは、議会基本条例の条文に掲げる前述のような政策のチェック項目を参考として、行政と議会の双方から政策の評価を実行して、政策の質を上げてほしいと願ってのことです。政策を構成する重要な要素を項目化し、行政はそれを遵守して政策活動を行う。そして議会は、提案された政策を事業別政策調書に即して点検し、必要なときには自らの政策提案を行う。これがあるべき自治体の政策活動なのです。
政策の決定過程あるいは審議過程における事業別政策調書「8 決定の過程」にある(1)〜(9)の中項目、あるいは議会基本条例の7項目の意味を考えてみましょう。例えば、首長の提案を事業別政策調書の9項目あるいは議会基本条例の7項目の観点から議会がチェックしたときに、3つか4つしかクリアしていないとなれば、政策として不備があることになり、議会は簡単に承認できなくなります。議会は首長に改善を求めるか、対案を出すか、あるいは否決するということになります。
そうなってくると、行政はできるだけ項目をクリアするような政策活動を心がけるようになるでしょうし、首長も事業別政策調書や議会基本条例が規定する条件を満たす政策活動の実践を職員に指示するようになるでしょう。これによって職員の政策能力は向上し、結果として、自治体の政策レベルを引き上げていくことにつながります。職員は首長の一兵卒ではなく市民の職員機構であり、首長も議会もともにその政策能力の向上に努めるべきでしょう。
現在、福島町がこれらの項目について記述を実行化しています。福島町は年度予算における新規事業について「政策等調書・総合計画事業進行管理表」を作成しており、議会が提案して行政と協議の上進め、予算における新規事業の説明資料として使っています。先進的な取組みといえます。
4 自治体政策の枠組み──総合計画
自治体の存在意義は、地域社会の問題解決にあります。市民個人やグループでは解決できない問題を社会全体の観点から政策によって解決するために、まず基礎政府として市町村政府がつくられます。政府は問題解決のために市民がつくった道具といえ、市民の期待に応えなければ交代させられ、よくやれば評価されて継続することになります。
その自治体政府は、二元代表制で運営されます。議会基本条例は議会だけの問題ではなく、首長の行動も規定しますので、神原氏は差し当たって「二元代表制運営条例」であると理解しています。また、政府の最大の仕事は、政策を実施して市民の信託に応えることですから、その政策の基本枠組みとなる総合計画を策定しなければなりません。
実効性のある総合計画とはどういうものか。近年は、役に立つ総合計画のために、策定と運用の手法の改革を踏まえた、優れた「総合計画の策定と運用に関する条例」(総合計画条例)も登場しています。
自治体政府を運営するための最高規範として自治基本条例があり、さらにその下に情報公開条例や市民参加条例など様々な関連条例があります。神原氏は、中でも自治体政府を運営する、二元代表制運営条例としての議会基本条例と、自治体政策運営条例としての総合計画条例の2つを基幹的な関連条例として位置付けています。
岐阜県多治見市の市政基本条例(自治基本条例)20条3項では、「総合計画は、市の政策を定める最上位の計画であり、市が行う政策は、緊急を要するもののほかは、これに基づかなければなりません」と規定しています。したがって、総合計画に基づかない政策や事務事業は実施しないということになります。
栗山町自治基本条例25条でも「町は、町政の目指す方向を明らかにし、総合的かつ計画的に町政を運営するため、情報の共有と町民参加を踏まえて、最上位の計画として総合計画を策定します」と規定しています。このように多くの自治基本条例では、総合計画が最上位の計画であることを規定しています。
問題はその先にあります。多治見市が市政基本条例で総合計画に基づかない政策や事務事業は実施しないといったことです。総合計画がありながら、そこに記載のない政策や事務事業を計画外で行うようでは、政策規範としての意味を失います。総合計画の生命線はここにあるのです。
栗山町の「総合計画の策定と運用に関する条例」(総合計画条例)は議会が主導して制定に至ったものですが、議会条例案の6条では、「町が行う政策等は、総合計画に根拠を置くものとし、総合計画に記載のない政策等は、緊急に必要が生じた場合を除き、予算化しないことを原則とする」と厳しく規定していました。
その後、町長側がこの議会案を引き取って提案し、自治基本条例と同時に制定した同名の総合計画条例は2条で、「町が進める政策等は総合計画に根拠を置くものとします」と定め、11条で「町が進める政策等は、総合計画に基づき予算化することを原則とします」と規定しました。表現は多少異なりますが、総合計画の外で政策や事務事業を実施することはできないということです。
思いつきの政策はやめ、限られた財源の中で将来を見通し、議論を経た上で政策は実施されなければならないのですが、計画期間中に新たな多くの問題が発生するでしょう。国の方針、補助金が新設、変更となる場合もありますが、そのときは政策や事務事業を柔軟に新設や修正するなど、これらを総合計画に組み込んで事業を行うことになります。総合計画を修正変更した場合は、必ず議会広報にその内容を掲載することも重要です。議会はそれほどまでに総合計画にこだわる必要があるのです。
このように「総合計画にない政策や事務事業は行わない」、そして「掲載事業の一つひとつを事業別政策調書で管理していく」という姿勢が重要になります。二元代表制と総合計画のルールを明確化し、その2つのルールを組み合わせて活用することが、これからの自治体運営には不可欠だと考えます。政策基礎情報としての事業別政策調書はその結節点となるのではないかと研究会では考えています。
現在、当研究会では、道内70自治体議会に対し、この事業別政策調書の様式に対するアンケート調査を実施すると同時に、同調書の導入を提案中です。導入第1号となる自治体議会を心待ちにしています。