2018.04.25 議会改革
自治体議員の兼業・請負禁止
地方自治法92条の2
地方自治法92条の2は、「普通地方公共団体の議会の議員は、当該普通地方公共団体に対し請負をする者及びその支配人又は主として同一の行為をする法人の無限責任社員、取締役、執行役若しくは監査役若しくはこれらに準ずべき者、支配人及び清算人たることができない」と規定している。
この規定は、議員個人が当該自治体との間で請負関係にある場合と、議員が主として同一の行為をする法人の役員等として当該法人と自治体との間で請負関係にある場合の2つを禁止している。このうち、請負人が議員個人の場合には、重要度にかかわらず同条の兼業禁止に該当すると解されている。一方、「主として同一の行為をする法人」とは、当該自治体等に対する請負が、当該法人の業務の主要部分を占め、当該請負の重要度が議員の職務の公正、適正を損なうおそれが高いと認められる程度に至っている場合の法人を指すものとされている。
「請負」に該当した場合、当該議員は失職するという重大な結果に至ることから、「請負」の要件、すなわち、ある契約が「請負」に該当するか否かを判断する基準が明確であることが必要である。議員の職務の公正な執行を妨げるおそれがあるものは「請負」に該当し、そのおそれがないものはこれに該当しないと考えられるからである。
議員が当該自治体に対し「請負をする者」になることができないという、この規定は、具体的な請負契約の締結に対する議決等に参与することを通じて直接間接に事務執行に関与することになり、議会運営の公正性と事務執行の適正を確保するために、当該自治体に対して請負関係に立つことを禁止しようとするものと理解されている。地方自治法96条1項5号は、自治体議会が議決しなければならない事件として、「その種類及び金額について政令で定める基準に従い条例で定める契約を締結すること」を挙げており、この権限行使の公正性を確保するための措置を講じているのである。
そして、公職選挙法104条の規定によって、自治体議会の議員の選挙における当選人で、当該地方公共団体に対し、地方自治法92条の2に規定する関係を有する者は、当選の告知を受けた日から5日以内に、その関係を解消した旨の届出をしなければ当選が無効になるとされている。
兼業禁止の対象となる「請負」については、広く営業としてなされている経済的ないし営利的取引であって、一定期間にわたる継続的な取引関係に立つものを含むものとされている。このことから請負の性格は、継続性、反復性があること、経済性ないし営利性があること、請負の内容を決定する自由があること等が挙げられる。議会運営の公正や事務執行の適正を損なうおそれはなかったと評価されれば「請負」には該当しないことになる。「請負」に該当するか否かは、個々の事案について、その契約内容や性質を十分に分析、検討した上で判断される必要がある。
議員の兼業禁止規定は、1899(明治32)年の「府県制・郡制」、1911(明治44)年の「市制・町村制」において設けられていたが、1946(昭和21)年に廃止されている。廃止の理由は、地方議会の議員が請負関係に立つことは、特に弊害を伴うこととは考えられないし、むしろ広く人材を求めることが望ましいということであったという。
議員の兼業禁止規定が復活したのは1956(昭和31)年であった。議員は請負契約の締結に当たり団体意思の決定のための一員として議事に参与するのみならず、議員が当該団体に対して及ぼす力は少なくないと考えられ、しかも実際に、各地で弊害が報告されていたからである。
兼業・請負禁止規定と議員のなり手不足
ケース①が注目されるのは、兼業・請負禁止規定が特に小規模市町村議員のなり手不足の背景のひとつになっているのではないかといわれているからである。総務省内に設けられた「町村議会のあり方に関する研究会」の報告書(2018年3月26日)は、「小規模市町村においては、人口が少ないことに加え、事業所も限られていることから、公務部門の人材や市町村との取引関係がある事業者等が議員になり得ないことによる実態的影響が大きいものと考えられる」と指摘した上で、場合によっては、個々の契約締結や財産処分などについて議決事件からの除外を可能にする仕組みを設けることが考えられるとしている。
もし、除外ということになれば、それは、議会が議決権限の一部を失い、首長の決定事項となるから、その公正性を担保する仕組みが別に必要になる。そのような制度改正をすることが、実際に、小規模市町村議員のなり手不足の解消に役立つかどうか吟味しなければならない。それについては、研究会の報告書が小規模市町村を前提として打ち出した2つの議会像、少数の専業議員で構成する「集中専門型議会」と多数の非専業議員で構成する「多数参画型議会」の考察を含め、別の機会に譲りたい。