2018.03.26 政策研究
配布資料が欠けている研究会 ──『町村議会のあり方に関する研究会報告書』について(その1)─
資料の非公開性
開催要綱によれば、「会議終了後に配布資料を公表する」としている。実際、ホームページにも会議資料が掲載されている。これによって、事務局が提供した資料、つまり研究会で議論された資料を追試することができる。例えば、第1回には、「資料2」として「町村議会のあり方に関する課題等について」が配布されている。それなりに充実した資料であるし、しばしば、こうした配布資料は、最終報告書において参考資料として添付されることも多い。同資料には、例えば、大川村の概要や状況も解説されている。
ところが、開催要綱によれば、「配布資料については、座長が必要と認めるときは非公開とすることができる」とある。つまり、資料非公開を想定している。もちろん、「座長」の権限であり、事務局や所管局課の判断ではない。しかし、座長を支援するのが庶務担当である行政課である以上、実質的に公開・非公開を決定するのは、所管局課と考えるのが自然であろう。もっといえば、座長の任務とは、事務局の意向を忖度(そんたく)し、事務局が非公開にしたいという資料を、座長自身の判断として非公開を決定する責めを負うことである。座長業とは大変な仕事である。
しかし、ホームページを見る限り、存在した配布資料を座長判断で非公開にした、という事例は見当たらない。例えば、2018年3月6日の第7回の「議事次第」には、「配布資料」としては、「第6回研究会(2月8日開催)の議事概要」が記載され、ホームページでも同様である。つまり、配布資料は全てホームページで公開されている。
もっとも、面白い現象もある。例えば、上記の第7回「議事次第」には、「2.報告書(案)について」という項目がある。普通に考えれば、たたき台としての「報告書(案)」が会議で構成員に配布され、それを基にして構成員や幹事・事務局で、「ああした方がいい、こうした方がいい」とか「ああでもない、こうでもない」議論をすると思うであろう。しかし、この研究会は、「議事概要」や「配布資料」を見る限りそうでもない。この研究会では、「報告書(案)」という資料やたたき台も何もなしに、「報告書(案)」を議論している、かのごとくである。配布資料のないままに、完全に口頭での議論で進行するという、離れ業をしているかのごとくである。
こうしたことは常識では考えにくい。普通に推測すれば、「報告書(案)」を配布して議論をしているが、非公開扱いとして回収している。つまり、「配布資料」ではなく「回収資料」なので、座長は非公開を決定する必要はない。なぜならば、開催要綱によれば、「配布資料を公表する」もので、「配布資料については、座長が必要と認めるときは非公開とすることができる」のであって、「回収資料」については、沈黙しているからである。存在していた回収資料は、あったのに「無」かったことになる、というわけである。
しかし、以上は仮説である。オーラルヒストリーで確認しない限り、真相不明である。ただ、文書資料・史料にのみ依拠する精密実証では、たたき台としての「報告書(案)」は存在しないことになる。もっとも、すでに毎日新聞(3)・朝日新聞(4)で「報告書(案)」に添付されそうなポンチ絵は報道されているので、こうした新聞報道を史料とすることはできよう。
また、「議事概要」からは、何が「報告書(案)」に書かれていたかを推測することはできる。例えば、第5回「議事概要」によれば、「集中専門型」と「多数参画型」なる「議会のあり方に係る2つの方向性」ということがあるらしく、「請負禁止の緩和」が論じられたようである。そして「選択手続」や「議員と常勤の公務員の兼職禁止」や「住民が議員とともに政策的議論に参画」することが記載されていたのであろう。しかし、これらは、あくまで仮説にすぎない。
おわりに
本号がウェブ公開される段階(3月26日予定)では、すでに最終報告書が公表されているかもしれない。しかし、研究会の検討過程については、同時進行においても、報告書完成事後においても、再現性と検証可能性は高くないかもしれない。もっとも、全ての行政の決定に再現性・検証可能性が求められるわけではない。特に重要な決定については、関心が同時的・事後的に高いというだけである。本研究会が将来的に重要な決定の端緒であったということが分かったときには、その過程の検証が必要になるのであろう。逆にいえば、累次の研究会と同様に、単なる数ある報告書のひとつにすぎないとなるのであれば、そこまでは問われないのであろう。(2018年3月11日脱稿)
【つづく】
(1) 2018年3月6日の研究会で最終報告書が公表されることを前提にしたかのような報道もある。例えば、信濃毎日新聞2018年3月8日付け「社説」などがその例である(http://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20180308/KT180307ETI090007000.php)。
(2) http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/choson_gikai/index.html(2018年3月11日閲覧)。
(3) 毎日新聞デジタル版2018年1月13日配信(https://mainichi.jp/articles/20180113/k00/00m/040/163000c)。「集中専門型議会」と「多数参画型議会」と報道されている。
(4) 朝日新聞デジタル版2018年3月4日配信(https://www.asahi.com/articles/ASL320DMYL31ULFA039.html)。