2018.01.25 政策研究
【フォーカス!】訪日客は6年連続で増加
観光業界の構造改革を
石井啓一国土交通相は1月12日の記者会見で、2017年に日本を訪れた外国人旅行者が前年比で19.3%増の2869万人とする推計結果を発表した。東日本大震災で落ち込んで以降は、6年連続で前年を上回り、過去最多を更新している。2012年と比べても3.4倍という大幅な伸びだ。
政府は中国やロシアへのビザ緩和や消費税の免税拡大など政策の効果をアピールするが、実際には世界的な経済拡大の中で海外旅行に出られる所得層が増えた世界的な旅行ブームに加え、格安航空会社(LCC)の普及が大きいだろう。
地域的な偏在
国・地域別の内訳は、中国が735万5800人(前年比15・4%増)で3年連続のトップ。2位が韓国の714万200人(同40.3%増)、3位が台湾の456万4100人(同9.5%増)、4位が香港の223万1500万人(同21.3%増)と上位4位は東アジアが独占、全体の70%を超す2129万人に達した。LCCやクルーズ船の就航が大きく貢献したと言えるだろう。
このほか伸びが目立ったのは、40.8%増のロシアが7万7200人、32.1%増のベトナムが30万8900人、30.0%増のインドネシアが35万2200人だった。
過去には領土などを巡る外交問題が深刻化したことで、中国や韓国からの観光客が急減したことがあった。一つの地域に頼っていると、国際関係や景気動向の影響を受けすい。偏在を是正するためにもタイやインドネシア、インドといった他のアジア諸国や北米からの訪日客を増やし、変動リスクを軽減することが重要となる。
欧米人を狙え
観光庁が1月16日に発表した外国人旅行者の消費額は前年比17.8%増の4兆4161億円となり、こちらも過去最高を更新した。ただ、1人当たりの消費額は1.3%減の15万3921円となっている。マイナス幅は2016年より縮小したが、中国人らの「爆買い」が沈静化しつつあり、旅行の目的が「もの」消費から「こと」消費に移っていることを裏付けた。
政府が掲げる東京五輪・パラリンピックが開かれる2020年の目標は、訪日客数が4000万人、消費額8兆円。現在のペースで考えると、客数はクリアできそうだが、消費額はさらなる努力が必要となりそうだ。
例えば、都市部では、食事以外の夜の娯楽を求める旅行者も増えてきている。文化施設の夜間公開やエンタテイメントの充実、これを支える地下鉄といった公共交通機関の終夜運転も考えなければならないだろう。
地方部では滞在時間を延ばすための工夫、体験型のツアーを増やすといった方法も考えられる。さらに「欧米人に満足してもらおう」という合言葉もある。企業のインセンティブ旅行や団体旅行旅から、個人旅行に主力が移りつつある。その中で、旅慣れた欧米人が気に入ってSNSなどで発信した観光地はその後、アジア人も訪れるようになり広く受け入れられるからだ。
地域活性化も
近年は、外国人観光客が多く訪れる東京だけでなく、京都や大阪といった都市の地価が急上昇している。人口減少にある日本において、国際観光が経済を刺激し、地域の活性化に役立ち始めている。この世界的に勢いのある今こそ観光業界の構造改革を進めて、主要産業に育てなければならない。
まずは、ホテル業界だ。シティホテルやビジネスホテルの客室稼働率は全国平均で8割程度あり、東京、名古屋、大阪、福岡といった大都市とその周辺では満杯に近い状態が続いている。これら地域ではホテルの新規立地も続いており、行政がこの動きを後押しするのは当然のことだ。
ただ、旅館の稼働率はこれら地域でも高くて5割台、6割台と余裕があることを忘れてはいけない。旅館は立地やサービス、それにインターネットからのアクセスの面から、外国人が利用しにくい。これらを改善するとともに、事業継承の際に新しい経営者を登用する意味からも他業種からの参入を促すことも重要だろう。
マンションやアパートの空き部屋に旅行者を泊める「民泊」も今年6月から解禁される。住宅地やマンションの平穏が乱されるといった懸念から、観光と住民生活とのバランスをどう取るかが課題となっている。
現在、都道府県が中心となって民泊の実施条例をまとめている。地域住民との対話を通じ、どの地区、どの時期なら民泊を受け入れられるのかなどの点から、宿泊ルールを早期に明確化してほしい。同時に違法な民泊を監視する仕組みを整えることも不可欠となる。