2018.01.25 政策研究
都道府県議会の比例代表制論――『地方議会・議員に関する研究会報告書』について(その4)――
比例代表選挙導入案
以上のような議論から明らかなように、根拠薄弱ながら、『報告書』は、都道府県議会議員の選挙制度として比例代表選挙を提唱する。この提言は、極めて大胆である。都道府県議会では、一貫して、郡市選挙区制・市区町村選挙区制という、選挙区別の定数には一貫性も思想もないが、地域別選挙区という仕組みがとられてきたからである。あえていえば、地域代表制が、都道府県議会の根幹であった。『報告書』の比例代表選挙導入案は、こうした地域代表制を完全に否定するものである。
『報告書』によれば、比例代表制は、
① 政策・政党等本位の選挙になり、政策の明確化になる
② 候補者の多様性や専門性の確保が期待できる
③ 政党等が媒介することで、有権者にとって、比較可能性が高まり、投票が容易になる
④ 指定都市問題を解消できる
⑤ 一票の格差など選挙区の設置・定数などの実務的諸課題を回避できる
⑥ 政党等本位の選挙となり、国政との連動性が期待できる
というメリットがあるという。また、実態として都道府県は政党化が進んでおり、比例代表選挙の導入は円滑に実施できる環境にあるという。
しかし、『報告書』は、留意点も述べる。1つは、地域代表性の減少・消失である。2つには、比例代表に伴う名簿(順位)作成の難しさである。3つには、政党等による選挙運動を認めるなどの選挙運動の改革が連動して必要になることである。4つには、解職請求の仕方が難しくなること、である。
しかし、上記メリットも疑わしい。比例代表制になったからといって、①政策・政党等本位の選挙になるとは限らない。にわか仕立てのいい加減な看板の新党が、あるいは、既成政党が曖昧な政策で、風頼み、党首の魅力頼みの選挙をすることは、充分にあり得る。要するに、比例代表制は、政党制がしっかりしている国・地域では政党本位の選挙になるが、日本のようにそうでない国・地域では、いい加減な選挙になる。②のように、政党が名簿に多様かつ専門能力のある候補者をそろえるかどうかは、政党の組織能力と節操次第である。むしろ、日本のように政党組織がいい加減な国・地域では、有象無象の候補者をそろえるだけということも充分にあり得る。
③についても、日本のように政党がいい加減であれば、有権者の選択にとって何の役にも立たない。④については、全く効果がないことはすでに述べたとおりである。⑤は唯一のメリットであろう。⑥は、すでに述べたように、政党等本位になるという保証はない上に、そもそも、国政と連動することが望ましいのかは、大いに疑問である。都道府県議会選挙が、国政争点・政局で争われることは、むしろ望ましくないといえる。
こうして見ると、『報告書』の比例代表制導入論は、全く説得的ではないだろう。
選挙工学のマニア論議
『報告書』は、比例代表制導入という「結論ありき」であるので、さらに、マニアックな議論を続ける。簡単にいえば、現行の地域代表性の喪失という問題を受けて、比例代表選挙において地域代表性を維持する案を3つほど考えている。
案Aは、比例代表選挙と選挙区選挙の並立制である。国政と同じ発想である。ただし、比例代表選挙が中心であるから、比例代表の定数を多くするとしている。もっとも、選挙区設置に付随する問題を抱え込むことになる。
案Bは、比例代表選挙と選挙区選挙の併用制である。ドイツ方式である。この方が、比例代表の特性を重視するので、『報告書』のスタンスに合致するだろう。また、選挙区設置に付随する問題は抱え込むが、議席配分は比例代表で決まるので、選挙区設置は大勢に影響せず、問題はより小さいだろう。
案Cは、少数の選挙区を設置し、そこで比例代表(地域別名簿)とする方式である。とはいえ、比例代表であるためには、選挙区は大括(くく)りでなければならない。その区割画定は実務的に難しい。しかも、大括り選挙区では、地域代表性は体現しにくい。
いずれにせよ、選挙区設置が極めて困難を伴うのは、市区町村議会選挙での選挙区設置と同じことである。こうして考えると、比例代表を基本に据えながら地域代表性を維持するのは、容易ではないことが分かる。ということは、現行の地域代表という都道府県議会の性格を根底から覆し、制度移行のハードルは高いものとなろう。新たに道州制が設置されるときに、道州議会に比例代表制を導入することは可能であろうが、現行都道府県議会に比例代表制を導入することは、容易ではないことがうかがえる。
【つづく】