2018.01.12 政策研究
【フォーカス!】森林整備予算の付け替え懸念
森林環境税は役立つか
2017年12月22日に与党税制改正大綱が決定され、「森林環境税」の導入が決まった。年間で約620億円の税収を使い、人工林を管理することで地球温暖化対策や災害防止・国土機能の保全に役立てるとするが、機能するか疑問視する意見も多い。
2024年度から課税
この新税は、新たな森林管理システムの導入を求める林野庁と総務省が主導して創設が決まった。課税は2024年度から全国で約6200万人が納める個人住民税に、国税として1人当たり年間1000円を上乗せする。
徴収は市町村が実施し、いったん国の「地方税及び譲与税配付金特別会計」、つまり地方交付税の特会に入り、それを私有林人工林面積、林業就者数、人口といった客観基準に基づいて森林環境譲与税として、総務省が全市町村に配る仕組みだ。
これを財源にして市町村が森林管理を実施する。具体的には、まず自分では手入れできなくなった森林所有者から管理の委託を受け、そのうち経済ベースで他の林業経営者が管理できるところは再委託し、難しい条件不利地域については市町村が直接、間伐などの管理を行う。
林野庁と総務省が関係する法案を2018年の通常国会に提出、管理制度が創設される2019年度から、課税に先立って地方自治体への配分を始める予定。先取り分は特会を使った借金で賄い、後年度に返済することなっている。
災害防止は羊頭狗肉
新制度については、いくつか指摘したいことがある。まず、森林環境税が2024年度から創設される理由は、東日本大震災からの復興などを目的とした1000円の個人住民税上乗せが2023年度で終了するためだ。
国民の負担増に配慮したというのが理由だが、一度増税すればあとは何としても取り続けたいと考える国の方針とも映る。まさに取りやすいところから取るという税の鉄則に沿ったものだ。なお、企業に対する復興特別法人税もあったが、こちらは予定より1年早く廃止されている。
次に、この620億円で効果が上がるかだ。全市町村1718と、支援の役割から都道府県に配られるとすると、1自治体当たり単純平均で3500万円となる。この額でどれだけできるかだ。
当初は、私有林人工林面積などを使い森林がある市町村だけに限定する予定だった。ところが、都市部を中心に取られるだけの自治体が出てくることに与党が難色を示し、「人口割」も導入、木材利用や環境教育の視点も必要などという理由で全自治体への配分となった。創設は容易になったが、集中投資には程遠くなっている。
今回対象になるような人工林は戦後、広葉樹の山を伐採し急傾斜地や山奥といった条件の悪い地域まで、スギやヒノキといった針葉樹を植えた拡大造林で生まれた森林だ。つまり、林野行政の失敗を新税で糊塗することにもなる。
手入れされない人工林で崖崩れが起き立木が流れ出し水害被害を拡大する事態が増えている。この少額で災害防止というのはあまりにも羊頭狗肉ではないか。
独自課税と併存も
森林環境税に対する自治体側の期待は大きい。かつては群馬県など河川の上流にある自治体が「水源税」として、森林整備費の支援を下流自治体に求めた時期もあった。この運動が大きな支持が得られなかったことから、2003年度から個人と法人の住民税に上乗せする地方独自の森林環境税が始まっている。
現在37府県と横浜市が導入しており、森林や里山の整備に乗り出している。つまりは、地域が直面する課題には国の補助金だけでは対応できないという判断があったからだ。国による新税導入は、いわば二番煎じでもあり、住民への重複感を伴う二重課税でもある。
国が私有林の管理改善に特化するとすれば、独自課税とは使途の違いがあるため併存せざるを得ないだろう。
最後に国の予算との関係を考えたい。譲与税が増えた分、一般会計での森林管理の予算が削られては意味がない。財務省がよくやる予算の付け替えである。同様に地方交付税が譲与税の分だけ削減されればこれも本末転倒となる。
森林環境税の税収分が本当に森林整備に上乗せとなり、地方交付税も減らされていないか、よく監視する必要があるだろう。