2017.12.11 議会改革
今あらためて議選監査委員を考える(下)
廣瀬:守秘義務を広くとらえるのか、それとも限定的に考えているのかという議論もある。監査委員として得た情報も、市民の方々からの情報公開請求で開示されるものもある。Xさんとしては、この守秘義務についてはどのように考えるか。
X氏:守秘義務の範囲については、江藤先生がおっしゃったとおり、守秘義務違反で訴訟が提起され、判例が確立しないと、なかなか基準は定まっていかない。情報公開については、個人情報がさらされる、政策決定がゆがめられる、公正な監査活動に支障があるということでなければ、もっと狭まっていく可能性はある。監査委員に提供される情報も、一定期間を過ぎれば公開しても差し支えない情報がほとんどである。
しかし、行政活動の瑕疵(かし)に関わる情報などは、どう処理するかは危機管理上の課題でもあり、政治問題化の懸念もあるので、安易に公開されることには、市長の部下である行政職員としては、懸念を抱かざるを得ない。また、指摘を受けた項目については、指摘に対する解決の見通しをつけてから公表されるのが通例である。
廣瀬:Iさんは、守秘義務を広くとらえて厳格に守って活動をされていらっしゃったようだ。一方、監査に提供される情報の中には、住民の利益になる、公益性の高い情報もある。この点についてはどうお考えか。
I氏:住民のプライバシーを侵害する、行政執行に悪影響を及ぼす情報以外は、非公開にすべきものではないし、逆にどの部分は公開可能かを明文化するのも困難が伴う。議選監査委員本人や議選監査委員が所属する会派の議員は、他の議員では知り得ない情報を持っている。その情報を自分の政治的野心に利用するようなことがあってはならないが、住民の利益になる問題についてKさんの紹介された事例のように、公表された監査報告に基づいて質問し、一定の成果が見られるとするなら、それはそれでよいことだと思う。我が市議会においても、この方法を積極的に参考にするべきと考える。
Xさんのいうように、行政からすれば、行政情報を議員に見られるというのはあまり好ましくないという気持ちはよく分かる。しかし、そうであっても、しっかりと正直に情報を出してくれている。そこには信頼関係があるということ。信頼関係を無視して無責任に情報をリークする、政治的に利用するということはできない。もしそういったことがあれば、議選監査委員には正直に情報を提供できなくなる。ひいては、監査制度そのもののゆがみにつながっていく。守秘義務ということより、やはり信頼関係を維持していくという観点が重要であると考える。
K氏:Iさんのおっしゃるとおりである。議選監査委員に対する監査される側の抵抗感も非常に大きい。
監査事務局は、法的にその位置付けが担保されているとはいえ、現実には現場に対して情報提供をお願いしている立場。信頼できない監査委員がいる監査事務局には情報を提供したくない、となったら、監査活動に支障が生じる。そういった点からも守秘義務の範囲を広くとらえておく方がよい。監査事務局の実質上の権限はそれほど強いわけではない。実地調査に出向いても、作業中や使用中の部屋は調査できないなどの制約があり、想像する以上に意外と権限がない。
X氏:行政職員の方は「意外と」ではないことはご承知かと思う。地方自治法には、監査委員は監査をする、としか書かれておらず具体的な手続は定められていない。資料不提出の場合の調整も何ら規定されていない。役所内の監査委員や監査事務局がどれだけ尊敬されているか、警戒されているか、あるいは軽んじられているかで、資料の出方にも違いがある。また、現場が突っぱねれば時間までに監査が終わらないことを知っている行政職員が、面倒くさい監査委員がいなくなるまで拒否しようということも起こりうる。そういう作戦を講じられたら対処のしようもない。