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2017.11.27 政策研究

【フォーカス!】戦略的な使途を考えるべき

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「観光促進税」は必要か

 外国人旅行者や日本人が出国する際に徴収する新税「観光促進税(出国税)」が導入される見通しだ。首相官邸の強い後押しもあって、年末の与党税制調査会でも認められ具体化する。今年夏ごろから急浮上した「1人当たり1000円」の課税は、果たして必要なのか、そして観光振興に役立つのか。

オンチケット方式

 観光庁の有識者会議「次世代の観光立国実現に向けた観光財源のあり方検討会」は11月9日、「持続可能な質の高い観光立国の実現に向けて」とする中間取りまとめを田村明比古長官に提出した。徴収額は1000円以内で、東京五輪・パラリンピック前の2019年4月までの導入を求めた。
 これを受け自民党の観光立国調査会は11月16日、名称は「観光促進税」とするよう決議。今後、与党税制調査会で創設が決まれば2018年の通常国会に導入のための法案が提出される。実現すれば、臨時ではなく恒久的に徴収する国税の新設としては、土地バブル対策のため1992年に導入された「地価税」以来になるという。
 ただ、この税金も1998年度以降は「当分の間」課されないこととなっている。そうなると、1989年の消費税までさかのぼる。名実ともに久しぶりの新規課税だ。
 徴収額については、韓国の出国納付金(約1000円)、米国の電子渡航認証システム申請料(1600円)などとのバランスや、高すぎれば訪日客の数に影響を与えることから1000円がめどと設定された。
徴収方法は、航空券の購入時に運賃と同時に集める「オンチケット方式」を想定している。この方式では既に国際線旅客に対する旅客取扱施設利用料が徴収されている。システム改修が必要とはいえ、航空会社側の負担はそう大きくないだろう。なおこの空港の利用料は、新千歳、羽田、百里、福岡、北九州、那覇の空港ビル会社、成田、中部、関空の空港会社の収入になっている。

税収は国主導で配分

 税収については、2016年の訪日客と日本人の出国者の合計が約4000万人ということから、単純計算で約400億円となる。観光庁の2017年度当初予算額210億円の2倍近くになる。
 使途について中間とりまとめは、①受益と負担の関係から負担者の納得感が得られるようにすべき、②先進性が高く費用対効果の高い取組を選ぶ、③地方創生をはじめとする我が国が直面する重要な政策課題に合致するものーという基本を示している。
具体的には、ストレスフリーで快適に旅行できる環境の整備、多様な魅力に関する情報の入手の容易化などを挙げており、出入国管手続きの迅速化や保安管理、標識の多言語対応などを想定される。
 なお全国知事会は、47都道府県の2017年度当初予算で合わせて727億円の観光関連予算が計上されていることから、地方譲与税として一部を自治体に配分するよう求めていた。だが、配分基準の設定の難しさや「国が新たな財源を活用し、自治体の取り組みに適切に対応していく」として、国主導で配分する考えを示している。

観光人材の育成を

 2016年の訪日外国人旅行者は2404万人、消費額は3兆7476億円と、いずれも5年前に比べて3倍、3.5倍という大幅な伸びだ。この勢いは今年も続いており旅行者は2800万人に達すると予測される。消費額は電子部品や自動車部品の輸出額と同程度となり、“輸出産業”としては自動車、化学製品に次ぐ規模といえる。
 政府は2020年には、旅行者を4000万人(2030年は6000万人)、消費額を8兆円(同15兆円)にする目標を設定、さらに観光を地方創生の切り札であり、国内総生産(GDP)600兆円達成の柱に据えている。
 この急激な伸びを安倍政権は成果とアピールするが、国際的にも世界経済は拡大傾向にあり、海外旅行ブームであることを割り引いて考える必要はあるだろう。いずれにせよ、観光促進税をてこにして、更なる旅客増につなげるという考えだが、いくつか疑問がある。
 なぜ、日本人も出国時に支払う必要があるのかだ。報告は各国と締結する租税条約には「国籍無差別」条項があるのをその理由に挙げる。だが、米国の申請料の対象は、ビザ免除国からの訪米外国人としており、税の形にはしないなど工夫の余地があるのではないか。
 さらに使途を考えた場合に、日本人が感じるメリット、受益も少ない。出国時には今でもスムーズに出ることができるし、入国時には機械化が進んでおり、待たされることも少ない。多言語表示も関係はない。これらから、なぜ日本人も徴収の対象なのか、納得のいく十分な説明を求めたい。
 外国人の待ち時間を減らすとすれば、入管や税関などの人員の確保や機械の高度化が不可欠となる。国内の安全・安心の確保の面からも、これら人員や施設の充実すべきことは理解できる。
 だが、本当に新税でなければできないのだろうか。訪日外国人の増加で消費税を含めた税収は確実に増加しているはずである。これらを充てるという考え方もできるはずだ。
 地方の観光地では、文化財を使った観光振興を目指す日本遺産などさまざまな取組があるが、効果はこれからの段階だ。地方自治体や既存の観光協会では、外国人の呼び込めるだけのアイデアに欠ける面もあるのではないか。
 地域にある資源を見つめ、分かりやすく紹介し、しかも観光客に多くのことを経験してもらう「コト消費」につなげる必要がある。これら観光に取り組むことができる人材が一番求められている。既存の観光施策への予算の上乗せ配分では、意味がない。
もし新税を導入するのであれば、人材育成といった既存の予算でカバーされていない部分、さらに訪日客の増加で、国や地方自治体の負担が増えた部分を中心に戦略的に使途を考えるべきある。
 

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