2017.11.10 政策研究
今あらためて議選監査委員を考える(中)
I氏(東京都下の市議会議長):私は現在、東京都下の市議会議長を務めている。議選監査委員は、平成23~24年に議員としては2期目という早い期に就任することができた。前職の銀行員時代には検査部門にいた経験もあり、こういった監査は苦手ではなかった。
我が市では、監査委員事務局職員が優秀で、あらかじめ事務局が準備し報告してくれた内容に基づき、代表監査委員、識見監査委員、そして議選監査委員の3人がコメントをする方式が主流となっている。事務局職員が時間をかけて、帳票類のチェックなどの準備を丹念にしてくれるおかげで、監査委員はそれまでの業務で積み重ねてきた経験をもとに、事務局の調査結果報告についてどのように考えるかをコメントすることで、監査委員としての一定程度の仕事ができていた印象を持っていた。
ただ、監査委員としての報酬をいただきながら、このような事務局におんぶに抱っこの状態では申し訳ないと思い、決算審査の際に、事務局の手をわずらわせずに地方税の納付に関する延滞の実態を自分自身が関わって調査をした。延滞処理は督促からいわゆる不納欠損処分に至るまで、いろいろなステップがあり、どのような判断でその処理をしたのか、地方税法に基づき、その処理が妥当であるのかを調べた。監査の対象は膨大な量になるため、無論、全てに着手することはできない。しかし、税は行財政事務の根幹であるので、せめてこれぐらいは取り組ませていただきたいと思った。
決算に当たっての監査委員意見書の執筆も、通常は事務局が素案をつくり、監査委員が修正するものを、私が例外的に素案からつくらせてもらった。たぶんその後は、これまでのように事務局作成に戻ったと思うが、監査委員、しかも議選監査委員が意見書を執筆するのは当市では初めてのことではないかと、当時の事務局長は語っていた。この経験から、議会選出の監査委員として果たすべき役割を、やる気になれば十分担うことができるという感想を持っている。
法律やこれまでの歴史的経緯から見ても、あらためて地方自治体の監査に議員が加わる必要があるのかを考える時期に来ている。私は自治体の監査制度における議選監査委員の存在意義は大きく、今後も可能な限り議会が関与できる体制を維持していくべきであると考えている。私が監査委員を務めていた、今から5年前、すでに議選監査委員制度廃止の話題はあったが、行政をチェックする立場にあり、二元代表制の一翼を担っている議会から、議選監査委員をなぜなくそうとするのかと当時は憤ったものだ。
しかし、現実を見れば、職務上知り得たことを政治的に利用して、自分の手柄にしてしまうような好ましくない議選監査委員もいるという話を聞いたことがあった。また、議選監査委員が議長退任後の「議長OBの指定席」であるかのような悪(あ)しき慣例が残る自治体の話も聞いた。今回の地方自治法改正をめぐる国会でも、議選監査委員が本来の役割を果たせていないという議論があったと聞き、大変残念な思いをした。その意味で、今こそ議選監査委員の役割や課題について再認識すべき時期に来ていると思う。また、議選監査委員にふさわしい人材とは何か、各自治体で議論する必要があるのではないか。そして、議選監査委員が本来期待されている職責を十分に果たすためにどうすべきかの議論を進めていきたいと思う。
廣瀬:監査意見を議選監査委員が自ら書かれたという例は、あまり聞いたことがない。いずれにせよ、議選監査委員制度をあえて廃止しようとしなければ、無作為でそのまま議選監査委員制度は残ることになっている。無作為で、何も議論せずに残したら、どこかで議選監査委員制度廃止論にあらためて焦点が当たった際には、制度の存続は難しいのではないか。
さて次は、議長を務めた後に監査委員をしても、きちんと仕事をした人の事例をお話しいただく。