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2017.11.10 政策研究

【フォーカス!】南海トラフの臨時情報

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過度な期待はせずに

 気象庁が11月1日から南海トラフ巨大地震を対象にした情報発表の運用を開始した。この巨大地震が発生しそうだと評価されたなら事前の警報ともなる「臨時情報」を出すという。ただ、日時を特定するような地震の「予知」情報ではなく、あくまで「予測」でしかないだけに、この政策が本当に役立つのかは評価が分かれるだろう。

異常事態に対応

 情報発表は2種類ある。まずは、気象庁の「南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会」の定例会合で評価した結果で、これは月1回ぐらいのペースとなる。もう一つが、臨時の情報だ。
 南海トラフ沿いで、①異常な現象が観測され、その現象が大規模な地震と関連するかどうか調査を開始した場合、②大規模な地震発生の可能性が平常時と比べて相対的に高まったと評価された場合、③大規模な地震発生の可能性が相対的に高まった状態ではなくなったと評価された場合―に出すことになっている。
 異常な事態とは、想定震源域内でマグニチュード(M)7以上の地震が発生したときや、ひずみ計に有意な変化があるときだ。「地震の前兆を捉えて評価し、起きると備えているうちに地震が起きる」という結果となれば確かに効果的だろう。
 だが、過去はどうだったのか。例えば、2011年の東日本大震災では、東北地方の太平洋岸にある震源域がM9クラスの巨大地震を引き起こすとは想定さえされていなかった。さらに、宮城県沖で直前に起きていたM6~7級の地震についても、次にある大地震の前兆とは判断できず、宮城県沖地震では?といった反応が主だった。
 2016年の熊本地震では震度7を2度も記録している。当初は1度目の震度7が「本震」と考えて、次に起きる地震を「余震」と称していた。これが「震度7はもうない」「次の地震は少し小さくなる」というイメージを与えることになった。それが2度目の地震被害を大きくしたと後に批判された。
 これを受けて気象庁は最初の震度7を「前震」、次の震度7を「本震」と言い換えた上で、「大地震の後もさらに大きな地震の可能性がある」などと説明するようになっている。これらを“想定外”と片付けるのは簡単だが、要は、地震のメカニズムは未解明な部分が多く、科学には厳然たる限界があるのだ。

難しい運用

 臨時情報が出れば、事前に高齢者や子どもら災害弱者を避難させようとするのは当然だろう。鉄道やバスの運行、店舗の営業、工場の操業も自粛となるのかもしれない。これは東海地震の対策のため1978年に制定された大規模地震対策特別措置法(大震法)と同じ悩みである。
 大震法では、異常な現象があると地震学者による地震防災対策強化地域判定会が開かれ、最終的には内閣総理大臣が警戒宣言を出し、地震に備える。主な対策は、①要援護者の避難の実施、②鉄道の進入禁止、車両は極力抑制③安全性が確保される病院や百貨店などは営業継続―などだ。
 だが、「もし地震が起きなければどうする」などの議論もされず、一度も警戒宣言が出されないまま、この南海トラフ対策に衣替えしたのである。その証左に南海トラフの評価検討会のメンバーは、東海地震を検討するメンバーと全く同じだ。
東海地震の震源域含めた地域を見守ることを考えれば当然とも言えるが、地震観測の予算を確保するための気象庁の弥縫策と言えないでもない。
 このまま臨時情報が出されても、戸惑うのは自治体や被害想定地域に住む住民らである。巨大地震が発生しなかったといって国や自治体が休業補償することはなく、企業も自己責任で判断するしかない。備えるための何らかのガイドラインがあってもいいのではないか。
 地震予知の夢や、ある程度正確な地震の予測の可能性を語ることは否定しない。だが、それに過度に期待することよって、今できる地道な地震対策を先送りしては将来に禍根を残す。
 人口減少に入っている社会である。行政施設や病院、学校などは更新の時期に合わせより、安全な所に移転していく。街の中心地域も徐々に津波の被害が少ないところに移していく。そんな長期的な視点を忘れてはならない。
 

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