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2017.10.25 議会改革

選挙制度工学と「実効的な代表選択」論 ――『地方議会・議員に関する研究会報告書』について(その1)――

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多様な人材の確保

 自治体議会・議員を取り巻く環境は、繰り返して論じられることである。議会・議員の役割は重要ではあるが、投票率も住民の関心も低下して、議員のなり手不足が深刻化している。このままでは立ち行かなくなるのであって、「幅広い人材の確保のための多様な人材の参画」(『報告書』2頁)が必要となる。とはいえ、この問題が、選挙制度改革という選挙制度工学によって処方できるかは、必ずしも明確ではない。むしろ、従来は、「立候補に伴う各種制度の整備」(『報告書』2頁)が論じられてきたところである。こうした論じ方は、選挙制度工学から自律的な旧来型の発想である。
 『報告書』の目新しいところは、幅広い人材の確保が、選挙制度工学によって処方可能だという視点である。実際、選挙制度改革を経た国政では、従来であればおよそ国会議員になれなかったであろう多様な「チルドレン議員」を確保することに「成功」した。このような観点からすれば、選挙制度工学によって多様な人材を議会に引きつけることは可能になるかもしれない。
 もっとも、このような選挙制度工学を待つまでもなく、すでに自治体議会には、「このハゲ~」、「ゲス」、「一線を越えていない」、「重婚」などの国会議員にも勝るとも劣らない多様な自治体議員もいる。号泣、セクハラヤジ、政務活動費詐取議員などである。ちなみに、「一線を越えていない」相手方も自治体議会議員である。こうして考えると、すでに自治体議会には幅広い人材は確保されている。しかし、このような絶望的な意味の多様性ではなく、望ましい多様性を確保することが、選挙制度改革によって可能なのかどうかは、全く明らかではない。

視点

 『報告書』は、実は必ずしも多様な人材の確保を目的にしているわけではない。むしろ、重視しているのは、「投票率の低下などに見られる住民の関心の低下」(『報告書』3頁)である。「住民の関心を喚起し、地方議会の存在感を高められるよう」にすることが目的であり、そのためには、「実効的な代表選択」を可能にするという視点が重要だとしている。これが『報告書』の基本視点である。いわゆる「ジャムの法則」と同じであり、実効的な選択ができるような状況であれば、選択行動が増すということである。
 もっとも、関心喚起によって、なり手不足の解消ができるわけでもないし、議員の性別・年齢等の多様性の確保などが達成されるわけでもない。実は、この点は『報告書』も自認しているところであり、「留意する必要がある」と指摘している(『報告書』3頁)。このようにバランスを失した検討を行うことも、「純粋に学術的な見地」の一種であることを示していよう。
 「実効的な代表選択」の視点は、以下の4つの要素からなるとされている。
 ① 選択ができるだけ容易なこと(投票容易性)
 ② 政策について実質的な比較考量ができること(比較可能性)
 ③ 選挙結果についての納得性が高いこと(納得性)
 ④ 有権者の投票参加意欲が高まること(投票環境)

結論ありき

 もっとも『報告書』では、なぜ、このような4つの要素が出てくるのかは、特に説明はされていない。『報告書』参考資料27「選挙制度と『実効的な代表選択』の基準」は、「委員提案等資料」と記載されているが、その内容自体は、単に上記の4要素が掲げられているだけである。では、研究会での議論の様子を確認する必要があるが、少なくとも総務省ホームページでは、開催実績が示されているだけであり、議論や提出資料について確認することはできない(1)。したがって、対外的な意味では、上記の4要素については、何ら説得根拠が示されていないと理解するしかないだろう。
 「学術的」に考えるならば、低投票率を被説明変数とする説明変数を解明することが必要になるだろう。例えば、天気とか、人口規模とか、高齢化率とか、景気とか、競争率とか、新聞報道量とか、町内会加入率とか、統一地方選挙か否かとか、いろいろな説明変数の候補が挙がるだろう。しかし、このような説明変数では、選挙制度改革につながらない。あえて後論から考えれば、議員定数とか、候補者数とか、参加政党数とかでの解明が待たれるところである。
 「実効的な代表選択」が投票率と関係があるかどうかは、「学術的」な研究が待たれるところである。もっとも「実効的な代表選択」とは、結局は何のことであるのか、説明変数として具体化(=操作化)されなければならない。上記の①投票容易性とは、具体的に何のことであろうか。また②比較可能性という、政策について実質的な比較考量ができることとは、具体的に何のことであろうか。①は、結局、候補者数ということであろうか。しかし、②については、候補者が何人であろうと、選挙区定数が何人であろうと、候補者が何を具体的に公約として掲げるか次第である。ましてや、③が投票率とどのように関係するか、意味不明である。④に至っては、ほとんど、投票率とトートロジーである。
 つまり、研究会の視点はあまり説得的ではない。結局のところ、最初から、選挙制度を検討したい、ということにすぎないのであろう。

【つづく】


(1) http://www.soumu.go.jp/main_content/000495624.pdf

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