2017.10.10 議会運営
第34回 議選監査委員の選任はやめるべきか
議会事務局実務研究会 吉田利宏
お悩み(「でも一度はなりたかった」さん 50代 市議会議運委員長)
平成29年の地方自治法(以下「自治法」という)改正で「条例で議員のうちから監査委員を選任しないことができる」(新自治法196条1項)とされました。現在、我が市の監査委員は、議選1人と識見を有する者(元市役所職員)1人ですが、この改正を受けて、議会としてどう対応すべきか悩んでいます。今後、議選監査委員の選任をやめるべきか、やめざるべきかアドバイスをお願いします。
回答案
A 議員が予算の使い方などを学ぶまたとない機会であるから、選任を続けるべきだ。特段、何も検討しないでよい。
B 監査の専門性を担保する観点から、議選監査委員の選任をやめることも検討すべきだ。
C 議長、副議長に次ぐポストであることを考えると、議会として議選監査委員を手放す選択はない。
お悩みへのアプローチ
「平成29年の自治法改正を受けて議選監査委員をどうするか。これはすべての自治体議会に共通の悩みです」といいたいところなのですが、全く悩んでいない議会もたくさんあります。新たに条例を制定しない限り、これまでどおり議選監査委員の選任が続くからです。何かトラブルが生じているならともかく、そうでないなら「これまでどおり」を続けるのが議会の習性(!?)なのかもしれません。
そんな中、「でも一度はなりたかった」さんの悩みには好感が持てます。改正の意味に正面から向き合おうとしているからです。ただ、「条例で……選任しないことができる」とあるのですから、議選監査委員の選任をやめるかどうかは、それぞれの議会が判断することです。ただ、せっかくのお尋ねですから、考えるポイントをお話しした上で「でも一度はなりたかった」さんの議会についてどうすべきか考えてみたいと思います。
回答へのアプローチ
議選監査委員の制度は自治法制定時からあるのですが、当初のねらいについて、山梨学院大学の江藤俊昭教授は「用心棒説」と名付けています。「監査委員制度が生まれた際に、その説明では、識見だけではなく、力を持った議選がいるからこそ充実した監査ができると、その必要性がうたわれた」(江藤俊昭「政策の核心をつかむ明日の論点 地方自治法等の一部改正と住民自治(下)―議会による活用の可能性を探る―」議員NAVIウェブマガジン2017年7月10日掲載)というのです。監査を質的にどう高めていくかの点ではなく、監査の結果をどう反映していくかという点に力点が置かれていたことが分かります。
用心棒として期待された議選監査委員でしたが、監査委員としての経験が議会での審議にプラスに働く面もしばしば見られました。守秘義務の規定(自治法198条の3第2項)はあるものの、「議選監査の存在は、予算を審議しているという点などからも決算審査での議論に深みと広がりを与える意味で有用であるし、一方で、議選監査を経験した議員が、監査委員としての着眼点を意識しながら、今度は一議員として、議会の決算認定に臨むことで、議論の質がレベルアップするという効果も期待できる」(木田弥「議選監査のすゝめ第2回 決算審査(監査)と、決算認定(議会)はどこが違うのか?」議員NAVIウェブマガジン2017年1月13日掲載)との意見があります。こうしたことから、議会審議に真正面から取り組む議員の間からも「選任をやめるのはもったいない!」との声を聞きます。
しかし、監査をめぐる制度論は「おまけ」の部分からではなく、監査の実効性(専門性を高めることができるか、また、監査の結果を反映することができるか)の面から判断しなければなりません。
つづきは、ログイン後に
『議員NAVI』は会員制サービスです。おためし記事の続きはログインしてご覧ください。記事やサイト内のすべてのサービスを利用するためには、会員登録(有料)が必要となります。くわしいご案内は、下記の"『議員NAVI』サービスの詳細を見る"をご覧ください。