2017.09.25 政策研究
【フォーカス!】地価維持の政策が必要 -所有者不明、スポンジ化に対応
国と地方の今。明日の議会に直結する、注目の政策をピックアップして解説します。
都市部は資産デフレ脱却か
国土交通省は9月19日、7月1日に時点での都道府県地価(基準地価)を発表した。商業地では三大都市圏がこの1年間で3.5%アップ、札幌や仙台、広島、福岡の中核的な地方4市も7.9%上昇した。
いずれも5年連続で地価が上がっているが、三大都市圏は一服感がある。東京圏などへの高値警戒から中枢4市に投機的なマネーが流入したことで、上昇率が高まっていると分析できるだろう。一方、4市を除く地方圏は1.1%減で下げ幅は縮小している。
住宅地も同様の傾向で、三大都市圏は0.4%プラスで4年連続、中枢4市でも2.8%増と5年続けてのプラスとなっている。これらの数字からは、地価が下がり続けるという資産デフレは都市部では脱却したとも言えるのではないか。
要因は?
地価が上昇している要因としては、景気回復がある。現在の景気動向は「緩やかな回復基調が続いている」とされており、2012年12月に始まった景気拡大は、長さでは戦後2番目に長かった「いざなぎ景気」(1965年11月~70年7月)に並んだともいわれている。
さらに都市部では、地方からの人口流入が相次いでいる。東京一極集中の是正という政府の地方創生策とは正反対の状況が地価を押し上げているのだ。
さらに2016年には2404万人の外国人旅行者が訪れ、外国人向けの店舗やホテル需要が高まっている。その中で注目できるのは、高級品やドラッグストアでの「爆買い」が一段落したこともあって、東京の銀座や大阪市などの商業地の上昇が一段落し、今度は京都市伏見区の伏見稲荷大社周辺など別の場所のアップが目立っている。
これは観光客の消費が「もの」から、日本でしかできない体験という「こと」に移ったことを地価の面からでも裏付けていると言える。訪日客を選ばれるためにも「こと」消費を意識したまちづくりが地価アップの一つのヒントになるだろう。
住宅地に関しては、人手不足もあって雇用情勢が改善し、政策的に低金利が維持され、住宅が取得しやすい環境が続いていることが挙げられる。ただ、これらは将来の需要を先食いしている面もあり、注意が必要だ。
個別化、差別化進む
中核4市以外の地方圏では、県庁所在地クラスを中心にプラスの地点も増え全体として下落幅が縮小してきた。盛岡市、山形市、宇都宮市、金沢市、静岡市、大津市、岡山市、北九州市、熊本市、那覇市などがその例となっている。
上昇した地点を見ると、駅前の再開発や高層マンションの立地など具体的な理由がある。これら地域は人口減少に加えて、投機的なマネーの流入も限定的となっている。高齢者が生活に便利な場所に回帰していることも貢献している。 ただ、全体的な土地の値上がりは期待できず、再開発などが行われた地点のみが上昇する地価の「個別化」、上がる所と下がる所が明確に分かれる地価の「二極化」が今後も進むだろう。このため、バブル期のように投機マネーを背景に地方圏全体がプラスに転じることは今後考えられない。
街づくりの基礎
全国にある地方自治体は今後、地価水準を一定程度に保ち、主要な財源である固定資産税収を維持できるような政策を導入しなければならない。具体的には、地価がもともと高く固定資産税収が期待できる駅前や中心市街地の活性化を続けるとともに、これら地域への都市機能の集約を進めるべきだ。
同時に、空き店舗や空き地が増える「スポンジ化」の進展を止めなければならない。そのためには土地の所有と利用を切り離し、商店街の店舗を借りて新規に出店しやすくしたり、所有者に空き家などのまま放置しないよう促したりすることが重要となる。その一方で、郊外での土地開発に歯止めを掛けることも忘れてはいけない。
スポンジ化に拍車をかける事態も懸念されている。団塊の世代が高齢者になってきたことから、大量の遺産相続が始まることになるからだ。現在でも九州を上回る面積の土地が所有者不明とされる推計もある。土地相続の登記をしないと、所有者不明の土地が急増する恐れがある。
不明土地の増加は再開発などあらゆる事業の妨げになる。政府は工事事業などをスムーズに進めるための新しい法案を来年の通常国会に提出する方針という。ただ、それだけでは不十分だ。
相続登記を義務付けるか、あるいは登記すれば固定資産税を軽減するといったインセンティブを付与することも必要だろう。スポンジ化や所有者不明の対策は今後の街づくりの基礎となる。これらの政策を早急に導入し実施に移すべきである。
ライフスタイルの変化
このほか三大都市圏を中心に懸念されるのが、都市内にある農地「生産緑地」の問題だ。2022年以降、固定資産税などの優遇措置が満期を迎える。放置すれば、住宅地としてこれらの農地が大量供給されて、地価の下落を招く恐れがある。
農水省は、営農を希望する農家には何らかの形で優遇を続ける方針という。供給を抑制することで、住宅地の下落を防ぐ方策が待たれる。
工業地の地価が全国平均でわずかながらプラスに転じたことは注目できる。東京圏を中心に、物流施設の立地が相次いでいるためだ。地方創生策として東京23区からの本社移転などを進めているが、この政策の成果ではない。
インターネット通販による物品の購入が急速に普及するというライフスタイルの変化が、1991年に4.9%増を記録して以来、26年ぶりに工業地の地価をアップさせた。