2017.09.25 議会改革
第15回 問われる議員定数・報酬 ――住民自治の進化・深化の視点から考える――(上)
(2)定数を考える論点の留意点
定数を考える論点を確認してきた。その上で、5つの留意点を以下確認しておこう。
① 委員会数の確定
一般には、一般会計規模及び執行機関の組織体系によって、委員会数及びその所管が決まる。とはいえ、これについてもそれぞれの議会によって異なる。予算の提案、正確にはその素案を議会が提案するようになれば、所管の対象領域は狭まり委員会数が増加する。まず、現行の委員会数から出発して、所管事務調査の充実を図りながら、委員会数を議論したい。経験則でいえば、一般会計規模100億円以下では読会制や本会議中心主義とするか(それらの場合でも委員会(1常任委員会)を設置し閉会中でも動ける体制は必要)、あるいは2常任委員会、300億円までは3常任委員会、500億円を超えると4常任委員会などとするとよいのではないだろうか。
② 常任委員会の複数所属は慎重に
委員会の複数所属によって原則を修正することも不可能ではない(地方自治法改正によって可能)。つまり、委員会数は同じであっても、複数所属により議会全体の定数を削減することは理論上可能である。しかし、複数所属を実践した飯田市議会では、それではしっかりとした審議は難しいとして、1つの委員会に所属することに戻している。議会力をダウンさせないで複数所属が可能かどうかは慎重に検討する必要がある。なお、予算決算常任委員会や、指定都市の区ごとの「地域版常任委員会」(横浜市会)の設置はこの限りではない。
もちろん、複数所属制度化の際にその根拠となった小規模議会の場合、議長を除く全議員が参加した常任委員会とともに、この複数所属は検討してよい。
③ 面積要件の加味を
討議できる人数を基準にしつつも、「多様性」を考慮すべき要素として加味することを前述において提唱した。住民参加の充実によって不必要となる要素ではあるが(5)、現行では必要と思われる。とりわけ、市町村合併によって成立した自治体では、1常任委員会当たり2~3人は中山間地域出身議員が必要だと思われる。それを考慮して委員会人数、全体の議員定数を決めることが必要である。
④ 住民参加によって議会力の充実や補完を
議員間討議は重要ではあるが、住民参加を踏まえた上でのことである。出前議会(住民との意見交換会)や、議会本体への住民参加(公聴会・参考人制度、請願・陳情の代表者の意見陳述)が必要なことは常に指摘していることである。それを超えて、議員間討議の支援を住民が行うことも考慮すべきである。委員会審議の補完である。実際に飯綱町議会が行っているように、特定のテーマを、住民と議員が参加する研究会を設置して調査研究し提言するということを想定するとよい。同議会では議員15人を2つに分けて、それぞれに住民が参加した研究会を立ち上げている。それは、予算要望や条例制定に直結した。
また、これを超えて委員会に住民が恒常的に参加して討議に加わることも検討してよい。もちろん、委員会に住民が参加することは法令上困難である。そこで、“委員会的なもの”を設置し、そこで討議を行う。例えば、会津若松市議会の議会制度検討委員会(政策討論会分科会)には、議員7人のほか公募委員2人が恒常的に参加している。
より積極的にいえば、住民の恒常的で積極的な参加により、委員会的なものに住民が参加し、そのことで定数を削減することも原理的には可能である(当然ではあるが、議決は議員権限)。ただし、その場合には住民側の覚悟も必要である。
⑤ 議長のカウントの仕方
議長は、委員会の人数には含めない方がよい。委員会に出向き、発言することは必要である(自治法105)。議長は一議員ではなく、大所高所から議会を運営することが望ましいからである。したがって、その計算式に基づけば、プラス1になる。なお、悩ましい問題ではあるが、筆者は奇数の定数を奨励している。めったにないとはいえ、可否同数となることはあり得る。その際、議長の政治心情からどちらかを選択する権利を奪うことはできない。慎重審議の必要性から「現状維持の原則」とすることもできるが、大きな争点の際には、議長であっても一議員としての表決の権限を縛るべきではない。
(1) 定数・報酬を議論する際に、同列に議論することが多いが、論理展開としては二元的代表制(機関競争主義)の作動の観点から定数を考え、それを支援する手法の1つが報酬といった流れで検討することが必要である。つまり、定数は議会運営のあり方そのものに直結し、報酬は議員個人に支払われる。どのような議会を作動させるかといった視点から、議員間討議を重視した議会運営、会派の役割、会期の検討、定数といった論点の系列がある。それを踏まえて、その議会を担う議員・会派の支援についての議論、議員の役割・資質、報酬、政務活動費といった論点の系列がある。
(2) 筆者は、非常勤では務まらず常勤的な活動が今日必要ではあるが、議員を職業とは考えていない。原理的には、多様な住民が議員となれる環境(制度と政治文化(議員後に容易に就職ができる))が必要であるからである。しかし、その環境は育っていない。非常勤でも常勤でもない特別な身分として公選職を位置付け、その待遇を議論することは喫緊の課題である。
(3) 筆者は、討議できる人数を基準とすることを提案してきた。委員会主義を採用しているとすれば、1委員会の人数に委員会数を乗じたものとするものである。基準を住民代表性(人口比)から討議にシフトさせる大胆な構想である。それほど批判はなく、素材の提供という意味では失敗作ではないと自負している。ただし、当初(江藤 2006)は6~10人を提案し、その後本文で提示しているように修正している(少なくとも7、8人:江藤 2011(原著 2008))。
(4) 議会改革のトップランナーである北海道福島町議会では1委員会当たり6人であるが、もうこれ以上は削減できないという。同栗山町議会も同様である。
(5) 議会改革のトップランナーである飯田市議会議長は、「市議会では市民目線を大事にしている。〔出身議員の少ないか、いない――引用者注〕中山間地の問題に関心のない議員は辞めたほうがいい」と述べている(『朝日新聞』(長野版)2015年9月11日付)。住民の人数も議員数も少ない中山間地域に全議員が関心を待たなければならないと強調している。飯田市議会は、従来から「人格を持った議会(機関としての議会)」を作動させ、自治体内分権を実施し、20地区の住民の声を吸収しているがゆえに、こうした発想が議会に浸透している。
〔参考文献〕(直接関連するものに限定)
◇会津若松市議会編(2010)『議会からの政策形成――議会基本条例で実現する市民参加型政策サイクル――』ぎょうせい
◇マックス・ヴェーバー(脇圭平訳)(1980(原著 1919))『職業としての政治』岩波文庫
◇江藤俊昭(2006)『自治を担う議会改革――住民と歩む協働型議会の実現――』イマジン出版(増補版 2007)
◇江藤俊昭(2009)『討議する議会――自治体議会学の構築をめざして――』公人の友社
◇江藤俊昭(2011)『地方議会改革――自治を進化させる新たな動き――』学陽書房
◇江藤俊昭(2012)『自治体議会学――議会改革の実践手法――』ぎょうせい
◇江藤俊昭編著・自治体学会議会研究ネットワーク著(2015)『Q&A 地方議会改革の最前線』学陽書房
◇大森彌(2007)「自治体議会議員の『職務』――固定観念の打破に向けて――」『議会政治研究』84号
◇大森彌(2016)「政務活動費と議員報酬――『千代田区特別職報酬等審議会』の答申」『議員NAVIウェブマガジン』2016年2月25日掲載(https://gnv-jg.d1-law.com/article/20160225/5126/)(2016年4月12日アクセス)。
◇全国町村議会議長会政策審議会(1978)「議員報酬のあり方について」(「議員報酬についての『全国標準』」1978年)。
◇全国都道府県議長会(2004)『二元的代表制の意義と議会の役割――分権時代の議会と首長の関係を考える――』
※拙稿「問われる議員定数・報酬」『地方議会人』2016年5月号を修正加筆している。