2017.09.25 議会改革
今あらためて議選監査委員を考える(上)
基調講演「議選監査委員と議会のチェック機能」
監査委員制度について本格的に議論されたのは、第29次地方制度調査会であった。議選監査委員制度を廃止することができる内容を盛り込んだ自治法改正は、第31次地方制度調査会で議論された。私は、第29次地方制度調査会に所属、また、今回の自治法改正に当たって、参議院の総務委員会の参考人として意見を述べた。そういった立場から報告したい。
(1)2つの意味で監査委員制度は転換期を迎えつつある
まずは、今回の自治法の改正である。監査制度の法改正には2つのポイントがある。第1に、監査基準の制定や専門委員の設置が可能になったことである。この点については、これまでも法改正を待たずともできないわけではなかった。第2に、議選監査委員制度選択制が導入されたことである。廃止する場合のみ条例制定が必要なので、議会が静かにしていれば議選監査委員制度は残る。残すにしろ残さないにしろ、監査委員の意義、機能の充実、議会との連動を改めて議論すべきだろう。
さらに、議会改革が第2ステージを迎えつつあることも認識するべきだろう。初めての議会基本条例が制定されてから11年が経過し、従来とは違った議会運営、閉鎖的ではなく、住民と歩み、開かれた議会、議員間討議が充実した議会、執行部の追認機関ではなく政策競争を行う議会を目指すことが議会基本条例に書き込まれた。ただし、それらはあくまでも形式的なものにとどまっている。形式を整えることは大事であるが、そのことをいかに住民の福祉向上に結びつけていくかが重要であり、そうした方向に動き出した議会も増えてきている。
追認機関ではない、執行機関と政策競争をする議会を目指す上で、議選監査委員だけではなく、実際に議会が、権限であるチェック機能を生かしているのか、監視機能をしっかり作動させているのか、法改正で作動させる意欲が議会にあるのか、議選監査委員をどう活用できるのか、こうした点が本日確認したいポイントである。
議選監査委員制度には、二元的代表制の原理的問題がある。議員の身分を残して執行機関である監査委員会に入るという原理的問題である。この制度は、そもそも議会にあった監査機能を、執行機関に移行させたという歴史から始まっている。この点については長期的な課題として今後も考えていく必要があるだろう。議選監査委員が、本日登場されたパネラーのように、「頑張っているよ、だから問題ない」という議論がある。しかし、実際には個人が頑張っているだけであり、個人や会派の頑張りだけの議論で終わっていいのかと問いたい。
この人なら議選監査委員に向いている、この人はだめという人選に関わる議論も現実にはある。しかし、本当に重要なのは、個人の資質に頼るのではなく、誰が議選監査委員に選ばれようとも、一定の成果を挙げられるようにすることであり、議選監査委員制度をどう二元的代表制に位置付けるかが課題である。監視機能と政策提言機能を連動させている議会も現れている。住民福祉の向上のために、年4回の定例会のみでは対応しにくいという問題意識から、飯田市議会、会津若松市議会などでは、個々の議員の頑張りに頼るのではなく、システムとして議会からの監視機能と政策提言サイクルを確立しつつある。また、現行法においても、議会には、決算認定や検査・監査請求や調査など、多様な監視機能が用意されている。それらを活用することが大事。そうはいいながら、議会のチェック機能の発動に当たっては、法律上に明確な定義がなされているわけではないが、書面による審査や参考人招致等が基本とされており、実地検査権は与えられていない。もちろん、現地視察などは行われているので、実態として実地検査に近い行為は行われているともいえる。
議会に監査機能が置かれていた時代には、議会は実地検査権を有していた。監査委員制度の確立によって、議会から実地検査権がなくなり、監査委員に移された。
2017年自治法改正では、議会の監視機能強化のために、議選監査委員選択制以外にも、内部統制に関する方針の策定義務化、監査基準の制定による監査制度の充実強化、決算不認定の場合の報告整備、首長などの賠償責任額の見直しなどが盛り込まれた。議選監査委員の選択制だけではなく、監視機能充実のために、議会は今回の改正を多様に活用できる。内部統制や監査基準の策定なども議会の監視機能強化にとって重要である。詳細は、「改正法を議会が活用する際のチェックリスト」(江藤俊昭「地方自治法等の一部改正と住民自治(上)」『議員NAVIウェブマガジン』2017年6月26日掲載)を確認していただきたい。
(2)議選監査委員制度の2つの評価
評価は両極ある。第29次地方制度調査会では、答申の直前まで議選監査委員制度廃止論が優勢であった。その後、議長会からの反対等もあり、両論併記のような形に落ち着いた。この調査会では、議選監査委員の中立性、専門性の欠如の問題や、監査の対象として政務活動費の問題も出てきた。現実に、議選監査委員は、任期が短いのが実態だ。議会によってはほぼ1年交代であり、6月に新監査委員が就任後すぐ議選監査委員として初めての決算審査を迎えるが、これで機能するのか。以上のような点が消極説をとる方々の論点であった。一方、積極説は、議員は「用心棒」であるとの見方である。本来議会にあった監査機能を執行機関に導入した経緯からも、議会からの監査請求権だけではなく、監査に政治的感覚を持った議員がいることでより根本的な、充実した監査機能を果たせるとの考え方である。
また、『議員NAVIウェブマガジン』の「議選監査のすゝめ」という連載で木田弥氏が細かく主張しているが、議会で議論された論点が監査でも生かせるし、一方で、監査の議論が議会審議に活用できるという。確かに木田氏の論点は分からないでもないが、これは木田氏だからこそ可能であって、他の議選監査委員が同じようにできるかという課題は残っている。現状では、監査委員は首長が指名し、議会が承認するというプロセスをとっているが、監査委員を有権者の選挙で選出する、あるいは議会が選出するべきではないかという議論もある。以前のように、議会に監査制度を位置付けるという方法も理論的にはあるが、自治法は改正後、すぐに抜本的な改正議論には進まないのが通例であるので、なかなか難しいだろう。
議選監査委員制度を廃止する場合、守秘義務を盾に、現状入ってきにくい情報がますます入らなくなる可能性がある。この場合は、監査委員を議会に参考人招致するなどの方法も考えられるだろう。存続の場合、二元的代表制を機能させるために、議会側からの選出基準をこれまでのような、アガリのポストや、最大会派と首長が「癒着」して選出するなどを避け、監査として機能する選出を工夫しなくてはならない。また、議選監査委員個人の頑張りだけではなく、システムとして作動させる上で課題となるのが、自治法198条の3第2項の守秘義務である。守秘義務をどう捉えるのか再検討が必要である。どの程度の話をしているのか。守秘義務をあまりに広くとると、議員が監査委員を担っている意味がなくなるのではないだろうか。
また、今回は深く触れないが、小規模な自治体における監査委員事務局の共同設置も今後検討していく必要があるだろう。去年(2016年)から備前市と瀬戸内市の事例がすでにある。調査に出向いたが、会計検査院からの出向者などを迎えていることもあり、なかなかうまくいっている。監査委員の共同設置も考える時期である。
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江藤教授の基調講演を受けて現場からの生々しい報告を含めたパネルディスカッションが行われた。次回ご報告する。
(中)に続きます。近日公開予定です。(編集部)