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2017.09.11 議会改革

第14回 議会からの政策サイクル(下) ――議会改革の本史とその第2ステージ――

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(3)議会からの政策サイクルの課題
 議会からの政策サイクルの作動を踏まえて、さらに充実させるための課題を考えよう(3)
 ア 地域経営におけるPDDDCA
 政策サイクルといえば、PDCAサイクルを思い浮かべる(P:計画、D:実践、C:評価・検証、A:改善)。それは、人間行動でも組織行動でも当然意識されるべき手法である。行政改革と同様に、議会改革でも活用できる。議会基本条例の条文を基準に毎年その改革を評価しようという発想はその1つである。
 とはいえ、地域経営においてはそのサイクルで軽視されていた討議(deliberation、debate、discussion)と決定(decision)という2つのDを組み込むことが必要である。それを踏まえないPDCAサイクルの活用は、知らず知らずのうちに行政の論理が浸透する。多くの議会に留意していただきたい論点である。逆にいえば、新たに付け加えた2つのD(討議と決定)を担うのは議会であり、それを無視する発想は議会を行政改革に包含させる。
 そろそろ、地域経営にとって従来のPDCAサイクルの発想と手法を超えたPDDDCAサイクルという新たな発想と手法の開発が必要になっている。

 イ 委員会の充実強化
 議会からの政策サイクルの乗り物(vehicle)として「委員会」が挙げられる。委員会の数、所管事項(事項の数や財政規模)を再検討してほしい。委員会とは別に、政策討論会分科会を設置した会津若松市議会でも、委員会の数や所管事項の再検討が始まった(議会運営委員会(2016年度より))。所管事項の偏りが検討の理由であった。
 委員会の充実強化は重要ではあるが、行政の縦割りの「再生産」の危険性などの課題はある。その是正に当たっては、連合審査の充実や、委員会による審議の中間報告会、視察報告会等の実施が必要である(4)

 ウ 政策サイクルの評価
 ここで提案する「評価」とは、行政に対する評価ではない。「議会からの政策サイクル」そのものの、つまりその作動による住民福祉の向上に対する評価である。一方で、議会改革の評価がある。これは、議会基本条例の条文を評価項目とすることができる。他方で、議会からの政策サイクルによる作動が住民福祉の向上に役立ったかという評価は、研究の途上にあるといってよい。満足度調査も可能であるが、そのつど、あるいはテーマごとの調査を連続的に行うことは、現実的ではない。まず、『議会白書』の刊行等による自己評価から出発したい。もちろん、条例制定を目標とすれば「可視化」は容易である。しかし、政策はそれだけではない。条例や予算・決算への審議、決議・意見書等などに議会はどうかかわったか、自己評価から出発するとよい。
 もちろん、自己評価だけではなく、議会(だより)モニターの設置も必要だ。なお、専門家による評価が指摘されるが、住民福祉の向上に寄与しているかどうかを判定するのは不可能とはいえないまでも困難である。その役割は、全国の他の議会と比較しながら、住民福祉の向上にかかわる当該議会の位置を確認することになる。

☆キーワード☆
【議会からの政策サイクルの「はじめの一歩」】
 議会からの政策サイクルの展開と課題を検討してきた。いわば議会改革の最先端の動向である。これらすべてを実践しようとも多くの議会は戸惑うだろう。そこで、「はじめの一歩」を考えたい。この言葉は、前泊美紀那覇市議会議員の発言である。彼女は、総合計画策定にかかわること、及び研修だという。おそらく、その一歩は議会の個性によって多様である。
 選挙があろうとも、また総合計画策定時期が異なろうとも、毎年ルーティンで行われる財政過程を対象に議会からの政策サイクルを作動させることを「はじめの一歩」として提案したい(5)。条例制定とともに、予算・決算はまさに「地域経営の本丸」だからでもある。
 1年間(4年間)の議会活動スケジュールを作成する。その際、重要なのは決算審議の充実が予算審議の充実に連動することである。住民からの要望・意見を踏まえること、議員間討議が不可欠であること、それらを踏まえて首長等と財政問題で政策競争すること、である。新たな議会運営が、財政問題をめぐって議会からの政策サイクルを作動させ、その経験が蓄積する。

~理解をさらに深めるために~
① 議員報酬や定数という条件を考える。
② 議会事務局、議会図書室の役割とその充実の手法を考える。
③ 議会からの政策サイクルを踏まえた首長等との政策競争を確認する。
④ 住民を含めたフォーラムとしての議会を創出するための方向や留意点を確認する。


(1) その乗り物・制度として、予算審査決算審査準備会(予算決算特別委員会(議案として提出されてから設置)の下ではない。常任委員会ごとに審査では同様)が設置されている。決算案、予算案が提出される前に、決算審査、予算審査は事前審査になると考えているためである。決算案、予算案ではないので事前審査には当たらず、予算(審査)決算(審査)委員会で行っても問題はないと思われる。
(2) 栗山町議会、岐阜県高山市議会、同多治見市議会、長崎県小値賀町議会、京都府精華町議会など。なお、最後の精華町議会(2016年度全国町村議会議長会特別表彰)以外は、総合計画にかかわった議会としてマニフェスト大賞を受賞している。
(3) 議会からの政策サイクルにおける「議会」は、全会一致をイメージしやすいが、議会は政治という側面があるがゆえに、そうならない場合がある。全会一致原則か(岐阜県可児市議会)、特別多数(予算要望に当たって3分の2原則(兵庫県西脇市))など、多様である。「議会から」を強調しつつも、合議が少数派の締め出しにつながることを理由として、討議を重視する討議(熟議)民主主義に対し批判する議論がある(江藤 2012)。
(4) なお、委員会の所管事項の検討に当たって、執行機関の組織編成に関心を持つことも重要である。首長直下の内部組織の設置と所管事務は条例事項だからである(自治法158①)。また、閉会中の委員会の活動について、限定的に扱う地方自治法の条文の解釈変更や改正も必要である(自治法109⑧)。
(5) 「はじめの一歩」として財政過程へのかかわりを、川上文浩岐阜県可児市議会議会改革特別委員会委員長(当時)は「地方議会における政策サイクルと評価モデル研究会」(2016年度、顧問北川正恭・座長江藤俊昭、公益財団法人日本生産性本部)において提案した。本小論はその研究会の成果の一部である。充実した議論が展開された。2017年度は第2期研究会を発足させた。

〔参考文献〕
◇江藤俊昭(2012)『自治体議会学――議会改革の実践手法』ぎょうせい
◇江藤俊昭編著(2016a)『自治体議会の政策サイクル』公人の友社
◇江藤俊昭(2016b)『議会改革の第2ステージ――信頼される議会づくりへ』ぎょうせい
*その他、筆者が執筆した雑誌論文(『ガバナンス』、『地方自治職員研修』、『地方議会人』等)。
*連載第13回、第14回はこれらと重複する部分がある。

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