2017.09.11 議会運営
第3回 委員会運営
4 守秘義務との関係
前回の【事例1】(市長との情実に基づいて、職員の中途採用が行われたという疑惑に関する百条調査)において、①当該職員が中途採用後に契約関係のやや技術的な法令に抵触し、処分されていたという情報が入ったとか(委員のもとには、不思議なことに、執行部の一部の職員からこのような情報が内通されたりするものですね)、②当該職員を採用するに至った管理職公募の競争試験が現職に有利なものではなかったのか、といったことについて調査の必要を考えた委員会が、地方自治法100条1項に基づき、人事課長に①(処分の存否及びその内容)を尋問し、②に関し執行部に対して当該試験で出題された問題の開示を求めることもあり得ましょう(法的には、委員会の申出を受けた議会において、証人の呼出しをし、執行部に記録の提出を求めます)。
このとき、証人又は当局が「公務員たる地位において知り得た事実」であって「職務上の秘密に属するものである」旨の申立てをしたときは、所属の官公署の承認がなければ、証言や記録の提出を請求できないとする調整規定が設けられています(地方自治法100条4項)。
このような申立てがなされたときの対応を考えます。①については、当該職員に処分歴(1)があるかどうかに決定的な価値があるわけでないでしょう。委員会として、就任後に公務員としての法令遵守に問題が判明するような当該職員を採用したことには実質的にも難があったと指摘していきたいのだとすれば、質問を変えて、「では、質問を変えます。当該職員が契約に関する事務を執行する上で法令に抵触した事実があるかどうか」、「具体的に、どのような類いの違反行為か」、「当局としては、その違反事実について、今後の再発を防止するため、当該職員に対し、何らかの指導等をしたのかどうか。内容は結構なので、何らかの対応をしたのかどうかのみ、教えてください」と問えば、守秘義務を理由として証言や記録の提出を拒否されることはなくなるでしょう。
②は、過去に実施された競争試験に出題された問題の公表の可否です。守秘事項であるとすれば、今後の同種の試験事務の実施に弊害があるためという理屈が考えられます。法定された手続(地方自治法100条4項の承認の求め、同条5項の公益を害する旨の声明)まで行く前に、参考人の手続を用いて、ひと工夫することも考えられます。
すなわち、委員会は、委員会条例に基づき学識経験を有する者等から意見を聴く参考人の手続をとることができます。参考人は、証人尋問という強制手続を用いる前段階として、又は任意に供述をしてもらう方が穏当で、効果的であると考えて、用いられることがあります。このほか、学識経験を有する者等から意見を聴くために参考人を用いることができます。例えば、百条委員会が、地域の大学の法学部の教授や情報公開審査会の委員を招いて、委員会の進行、尋問の際の留意点、偽証の認定、告発等について教えてもらうことは有益です。この参考人手続を利用して、調査と守秘義務の調整問題について質問し、各地の実例や裁判例、審査会の先例等、所感を陳述してもらうことが考えられます(これは、証人尋問を開始する前に実施しておくことも有益です)。執行部側は、このような参考人の陳述(が会議録に残ること又は残っていること)を踏まえ、守秘義務の主張の不合理さを再考する必要があります。守秘義務の抗弁を破るためのこのような仕掛けも検討してはどうでしょうか。
次回は、偽証の認定や告発の手続について説明することとします。
(1) 一般に、地方公務員法上の処分は公表する扱いがとられていると考えますが、個人識別ができる部分は公表されません。