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2017.08.25 政策研究

議員は非常勤職で首長は常勤職か

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東京大学名誉教授 大森彌

 2017年7月18日の報道によれば、自民党のプロジェクトチーム(PT)は、自治体議員を厚生年金の加入対象とする案の検討に入ったという。実は、2011年まで、自治体議員が支払う掛け金と自治体の負担金で運営される地方議員年金制度があった。しかし、この制度は、議員の特権的な処遇ではないかという批判もあり、市町村合併で自治体議員が大幅に減って財政が悪化したことに伴い廃止されたのである。
 ところが、全国都道府県議会議長会など3議長会は、自治体議員の成り手不足の状況に触れつつ厚生年金加入を可能にするよう各方面へ働きかけてきた。自民党のPTは、自治体議員も自治体の首長や一般職の職員と同様に地方公務員共済組合へ加入できる案を示し、各党間での協議を経た上で、次期臨時国会に法案を提出したい考えだと伝えられている。
 こうした中で、日本維新の会代表を務める大阪府の松井一郎知事が「大反対だ。非常勤の議員を優遇する必要があるのか」と発言し、自治体議員の新たな年金加入に反対の立場を表明している。自治体議員の共済組合加入の是非はともかくとして、「非常勤の議員を優遇する必要があるのか」という松井氏の反対理由には見過ごせない大切な論点が含まれている。というのは、この批判には、松井氏自身を含め、首長は常勤だから優遇されて当然だという意味合いが暗に含まれているからである。
 このように、議員は非常勤職、首長は常勤職と思い込んでいる人は世間には多いだろうし、議員の中にも自分をそうみなしている人が少なくない。
 現行の地方公務員等共済組合法では、組合に加入できる職員は「常時勤務に服することを要する地方公務員」とされているが、この中には、「法律又は条例の規定により職務に専念する義務を免除された者及び常時勤務に服することを要しない地方公務員のうちその勤務形態が常時勤務に服することを要する地方公務員に準ずる者で政令で定めるものを含む」とされている。首長は、「常時勤務に服することを要する地方公務員」か「常時勤務に服することを要しない地方公務員のうちその勤務形態が常時勤務に服することを要する地方公務員」かのいずれかである。首長は前者の扱いであるが、これには釈然としない点がある。議員は、この対象から除外されている。
 自治体の議員は、4年任期で直接住民が選挙で選ぶという点では公選職と呼びうる。自治体の首長も同じである。一般職の「地方公務員」に対して「特別地方公務員(特別職)」という区別があるが、特別地方公務員には、議員と首長のほかに副知事・副市町村長、教育長なども含まれる。私は、4年任期の公選職という一点で議員と首長は、他の特別地方公務員とは同じように扱うべきではないと考えている。
 問題は、議員の職務が非常勤で、首長は常勤だと断定できるかどうかである。公選職としての議員は、一般職の職員のように上司の下で時間的・場所的に管理される存在ではなく、住民の代表者として自律的に判断し、その責任を住民に対してとる者である。この点は首長も同じである。
 一般職の職員には、その職務に従事しなければならない勤務時間がある。決められた勤務時間を超えて勤務すれば超過勤務となり、その分の手当がつく。議員も首長も役所に行って仕事をするから、勤務をしているといえないことはないが、定まった勤務時間はないし、超勤手当もない。しかも、この両者は原則として兼業を禁止されていないから、一般職の職員のような職務専念の義務はない。もちろん、それぞれの職務を誠実に遂行する責務を負っているが、それは職務専念の義務を課せられているということではない。
 それでは、どうして首長は常勤で議員は非常勤とされているのであろうか。歴史的な経緯(戦前の知事は国の官吏で常勤職であったが、戦後改革で直接公選になったにもかかわらず、その職の扱いは検討されなかったこと)はおくとして、おそらく、その活動実態の外形的な違いが大きな理由ではないかと思われる。
 首長は、執行機関の長として、また、その執行機関の補助機関である一般職の職員の任命権者・管理監督者として、役所に行って処理しなければならない仕事が多いことは確かである。しかし、月曜日から金曜日まで毎日出勤しなければならないわけではないから、出勤簿に押印することもない。事実、あまり役所に「出勤」しない首長もいる。
 議事機関としての議会の議員は、議会開催中はもとより、閉会中でも必要に応じて会議には出ていく。しかし、毎日出勤しなければならないことにはなっていない。仮に毎日議会棟に来て、自分の控え室を中心に活動をしている議員がいても、それは常勤しているとはみなされない。
 こうしてみると、首長と議員の違いは、一方は執行機関で、もう一方が議事機関であることによる任務の質と量の違いであって、常勤、非常勤の違いではないのではないか。それにもかかわらず、公費支給の点で、首長には給与・旅費、退職金が支給され、地方公務員共済組合への加入が認められている。つまり、首長は、当然のように、一般職の常勤職員と同じ扱いを受けているのである。首長ほど役所に出かけない議員は、当然のように非常勤だとみなされるのである。
 4年任期の公選職である議員と首長は、本人の意思と選挙結果によって、入れ替わる。任期が来れば、議員の資格を失う。現職の議員が立候補し再選されても、議員の身分が継承されるわけではない。新たな議会の新たな構成員になるのである。首長の場合も同じで、再選されても、その時点で4年間の新たな首長になるのである。議員になること、首長になることは、世間でいう就職とは性質を異にしている。就職というならば、4年で失業する可能性がある職を勇んで求めるであろうか。
 自治体は、首長には「給与と旅費」を支給しなければならず、議員には「議員報酬」を支給しなければならないから、無給でなく有給であることは同じである。ただし、議員は有給職であるが、それは生活給だという扱いはされていない。
 常勤、非常勤の区別ではなく、公選職として議員職をどう処遇するのが適切かという観点が重要だと思う。共済年金への加入の是非は、議員も首長も同じ4年任期の公選職であることを認識した上で、扱いを同じにすべきではないか。議員の加入を認めることも、首長の加入を排除することもありうるというべきである。

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