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2017.08.25 議会改革

『地方議会に関する研究会報告書』について(その26)

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東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授(都市行政学・自治体行政学) 金井利之

はじめに

 これまで25回にわたって、総務省に設置された「地方議会に関する研究会」の最終報告書である『地方議会に関する研究会報告書』(以下『報告書』という)を検討してきた。前回は「第Ⅵ章(1) 住民参加の充実、住民の信頼確保を図るための地方議会のあり方」の「第2節 地方議会への住民参加のあり方」「(2)議会への住民参加のあり方」を検討した。今回は、「第3節 議会の活動に関する評価」を検討しよう。

議会に対する評価の意義

 『報告書』は、「(1)議会による自己評価」を第一義に据えている。「① 自己評価の意義・目的」によれば、自己評価結果を住民に公表することは、
 ○議会を自己評価する
 ○住民が議会活動をチェックするための情報を提供する
 ○議会活動のPR等に資する
 ○議会と住民とのコミュニケーションを深める
 ○議会改革のPDCAサイクルの形成に資する
ものであり、結局のところ、住民の信頼確保の観点からの重要性を有するという。
 『報告書』では、なぜ議会活動の評価をしなければならないのかは、説明されていない。端的にいって、議員は4年ごとの選挙を受けるのであって、選挙が最大の評価であるならば、それ以外の評価は必要ないといえるからである。もっとも、現職議員が常に次期選挙に出馬するとは限らないから、選挙だけでは評価が不足するといえよう。また、4年に一度の評価では手遅れになる場合があるから、もっと短期間のサイクルで評価をすることが求められるかもしれない。
 『報告書』によれば、広報・情報提供によって住民とのコミュニケーションを深めることができるようである。これは、前回に検討した『報告書』の意味するところの「住民参加」である。住民に対して、議会活動の状況を報告することが、評価の意味する内容である。しかし、そうであるならば、公聴会・参考人・報告会などが充実すれば、議会評価などは不必要であるともいえるし、報告会において説明する内容がないとすれば、評価報告書を説明することになるだろう。
 また、PDCAサイクルは、近年、しばしば言及されることである。C=チェックとしての評価をする必要があるのは、議会としてA=アクションとしての対処・改善=改革をするためである。議会改革のためには、評価は必要である。とはいえ、PDCAはマネジメントサイクルであって、企業のように独立した団体であればマネジメントサイクルはあり得ようし、自治体という団体でもマネジメントサイクルはあり得よう。しかし、議会は団体としてのマネジメントサイクルを行う存在ではなく、自治体という団体のマネジメントサイクルにおいて、PやCを担当する機関である。ならば、議会が行う評価は、議会に対する評価ではなく、団体に対するチェック機能そのものである。議会を自己価している暇があるならば、首長そのほかの執行機関をきちんと評価すべきであるかもしれない。
 とはいえ、議会が執行機関を評価することをきちんと行っているかどうかを、さらに評価する必要性は消えない。いわば、ダブル・チェックであり、「評価の評価」であり、メタ評価である。こうして考えると、「評価の評価」である議会に対する評価は、評価機関としてきちんと議会が機能しているかという評価に主眼が置かれることになろう。

自己評価の意義と限界

 『報告書』は、議会自らが点検・評価することを第一義的にしている。議会の自主性・自律性という観点からすれば、他者が評価するのでは、議会の自主的・自律的な活動ができなくなってしまうからである。例えば、国が地方議会を評価するのであれば、分権・自治はあり得ない。また、首長が議会を評価するのであれば、二元代表制の抑制・均衡の観点は成り立たないかもしれない。もっとも、首長を監視・統制するのが議会の役割であるから、反対に、首長が議会を監視・統制しても、対等な二元代表制と理解することもできよう。しかし、通常は、予算・人事を握る執行機関を監視することが重要なのであり、予算・人事を握らない議事機関を監視する必要はない。その意味では、首長が議会を評価することは適切ではないだろう。
 しかし、上述のとおり、住民が議会を評価するのは当然であろう。また、そうした住民に適切な情報を提供するのは、メディアの役割であり、その報道の一環において、メディアとしての評価を議会に対して行うこともあり得よう。つまり、重要なことは、議会の自己評価ではなく、第三者による評価でなければならないという見解も、説得的であろう。
 もっとも、第三者・他者によって評価されるとしても、議会が自己評価をしてはならない、あるいは、自己評価をすることは無駄である、ということには必ずしもならない。議会の自己評価をもとに、住民やメディアによる評価を行う、という「評価の評価」という位置付けも可能である。さらにいえば、自己評価がある方が、外部評価もしやすいということである。上述のように、議会に対する評価自体が、執行機関に対する「評価の評価」というメタ評価の性格を持つのであるから、議会の自己評価は、第三者・他者という外部による「評価の評価の評価」があるからこそ、意味を持つともいえる。
 このように、評価の連鎖反応的な増殖が止まらないのが近年の監査・評価重視の世相である。「評価疲れ」はまん延している。自己評価は機能せず、自己評価に対する評価(メタ評価)も機能せず、それゆえに、「評価の評価の評価」が求められるが、それも機能せず、それゆえに、さらに「評価の評価の評価の評価」などが無間地獄的に求められてしまう。しかし、結果的に自治体マネジメントの改善をもたらすとは限らない。

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