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2017.08.25 政策研究

【フォーカス!】低調な地方分権

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国と地方の今。明日の議会に直結する、注目の政策をピックアップして解説します。

いつ開く「政策の窓」

 「今こそ人口減少に転じた中で、本当に地方が持ち前の努力と勇気を持って歩んでいけるような、そういう伴走ができる仕事をしていきたい」
 総務相に就任した野田聖子氏は、8月4日の閣議後記者会見で今後の抱負について述べた。ただ、地方分権に触れた部分はわずかしかなく、記者の質問も次の自民党総裁選への対応や、靖国神社の参拝、携帯電話料金の低廉化などが中心だった。
 この会見が象徴するのは、地方分権の推進しようというエネルギーが現在の安倍政権には乏しいということだ。振り返って見ても安倍政権は当初、「アベノミクスの成果を全国津々浦々にまで伝える」としていた。それが地方側の「景気回復の実感が湧かない」との声もあってか、統一地方選を翌年に控えた2014年には「地方創生」をぶち上げている。
 その次に出てきたのが「1億総活躍社会」、そして「働き方改革」、最新は人手不足対策の意味を込めた「人づくり革命」となった。これらの成果が十分に上がらず、効果が検証されないうちに、政策の看板が次々と掛け替わっていく。キャッチフレーズ政治とでも名付けられるような状況だ。
 また地方に関連する政策のアイデアは、自治体に強く依存している。例えば、現在の分権改革は「提案募集方式」を採用した。自治体から移譲してほしい事務や権限を募集し、それを国の方で調整して推し進める方法だ。
 地方創生策として始めた中央省庁の移転も、地方側から移してほしい組織を募集している。東京23区での大学定員の抑制も、全国知事会からの提案を受け入れた。国家戦略特区の枠組みを使った学校法人加計学園による獣医学部の創設も、地元自治体からの提案があってのことだ。
 地方創生を巡って自治体からよく聞く話が、安倍政権の体質を示している。「国から交付金を受けるため内閣府に何度も通って説明し、得られるのは数千万円程度の支援しかない。しかも国のシナリオに合うような話に提案をまとめないと認められない」
 国にとって必要なのは、何にどれだけ支援したかという実績だけだ。内閣府の官僚は目先の数字の積み上げにこだわるばかりだ。一方、自治体側が交付金を受け取ると、その進捗状況を毎年、報告しなければならない。自治体には手間ばかりが掛かる。悪循環である。
 「それなら最初から自由に使える資金を回してもらった方がありがたい」というのが本音だろう。安倍晋三首相の政権運営は、国主導、中央集権的な嗜好が強い。自治体から要望を受け付けることで満足している。この上から目線をやめないかぎり、地方創生や地方分権は低調なままではないか。
 歴史から見ると、別のことも浮かび上がる。1993年に行われた国会での「地方分権の推進決議」の背景には、リクルート事件を受けた政治改革の手法として、各党がこぞって地方分権の推進を提唱したからだ。政府側も行政改革の一環として地方分権を活用しようとしていた。
 この決議を受けて地方分権推進法が成立し地方分権推進委員会が発足。国と地方の関係を「上下・主従」から「対等・協力」への変化させる地方分権一括法が2000年に施行された。機関委任事務制度が廃止され、国と自治体の間の新たなルールが設けられた。一連のこの動きは第1次分権改革と呼ばれている。
 地方分権は、それだけが単独で進められているのではなく、国の行政改革や政治改革とセットでこれまで実施されてきたのだ。一方、現在は「国の出先機関の原則廃止」や道州制導入といった自治体間でも意見が異なるテーマもあって、自治体側も動きは鈍い。
 地方分権推進委員会のメンバーとして地方分権一括法に携わった西尾勝東大名誉教授は今年6月30日の全国知事会の「地方分権に関する研究会」でこう述べた。
「地方分権改革は依然として『未完』である。しかし、分権推進勢力はこれからしばらくの間は雌伏し、再び『政策の窓』が開く次の時機の到来を待つべきである」
国の大改革とセットでないと、地方分権は動かないという指摘だ。安倍政権でこの窓が開くことはないと考えるのが順当だろう。

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