2017.08.10 議会運営
議会中継の著作権とその管理について
議会事務局実務研究会 米津孝成
これまで、議会と著作権との関係が議論される機会は、そう多くはありませんでした。しかし、平成25年に、何者かによってNHKの国会中継の動画が動画配信サイトに掲載され、当該サイトの管理者がNHKからの削除の申入れに応じてその動画を削除したというニュースが報道された際には、国会中継の著作権について注目が集まり、にわかに話題となりました。
SNSの普及によって誰もが発信者になることができるようになった今日、同様の事案は地方議会でも起きる可能性があります。本稿では、そのような事案の発生に備え、地方議会における議会中継の著作権とその管理について整理したいと思います。
なお、本稿中、特に断りのない限り、引用する条文は著作権法のものとします。
著作権とは
著作権とは、創作性のある著作物について発生する財産上の権利をいいます。著作権は、原則として著作物を作成した者、つまり著作者に帰属します。
著作権には、複製権(21条)や公衆送信権(23条)など、個別の作用を有するいくつかの権利が含まれています。これらの権利の作用により、著作物を複製する行為や公衆に送信する行為については、著作権者の許諾(63条)を得るか著作権法により認められた例外(30条~50条)に該当すると認められない限り著作権法違反となり、行為者は差止請求(112条)や損害賠償請求(114条、民法709条等)、処罰(119条以下)の対象となってしまいます。
議場での発言
議員が議場で行った質疑、質問等は、創作性がある限り著作物となり、著作権が発生し、その著作権は質疑、質問等を発言した議員に帰属すると考えられています。
同じように、議員の質疑、質問等に対する職員の答弁にも著作権が発生しますが、これらの答弁は自治体における職務上の発言であることから、その著作権は当該職員が所属する自治体に帰属するとされています(2条1項2号、15条1項、17条1項等)。
これらの発言を中継し、上映する行為は、それが非営利目的であり、かつ、聴衆等から料金を受けない限り、発言者の著作権を侵害するものではありません(38条1項)。ただし、同項の「上映」にはインターネット中継は含まれない(非営利目的で、聴衆等から料金を受けないとしても、著作権を侵害する可能性がある)と解されているので、自治体においてインターネットを利用して議会中継を行う場合には、議会と首長等との間で、議場での発言をインターネット中継で利用することを認めるとする申合せなどを行っておくことが望ましいでしょう。
議会の権利能力
議会中継のために議場の様子を撮影するに当たり、テロップを入れたりカメラアングルを操作するなどの編集行為を加えると、その映像に創作性が認められ、個々の発言に関する著作権とは別に、議会中継の映像自体が著作物となり、著作権が発生すると考えられます。
このような場合、誰が著作者となり、誰に著作権が帰属するのでしょうか。
自治体には法人格が認められており(地方自治法2条1項)、自治体が権利義務の主体となることに異論はありません。しかし、自治体の議事機関(憲法93条1項)にすぎない議会については、法人格を認める法令上の根拠がないことから、法人格は認められない、つまり権利能力はないと考えられています。
この点、地方自治法上、議会には、議決権(同法96条1項)、監査請求権(同法98条2項)、懲罰権(同法134条)などの権限が認められており、一見、議会にも権利能力があることを前提としているかのようでもあります。
しかし、これらの権限は、組織的・内部的な権限、あるいは、議会が議決機関としての役割を果たすために法が特に認めた権限にすぎず、これらの規定があるからといって、議会にも権利能力が認められるとまではいうことはできません。
議会中継を配信している自治体の中には、公式ウェブサイトに、「Copyright(C) ○○ City Assembly. All Rights Reserved」や「当サイトに掲載されている文章、画像、その他のすべての情報に関する著作権は○○議会に帰属します」など、議会に著作権が帰属するかのような記載がされている例を見かけます。しかし、議会に権利能力が認められない限り、議会に著作権そのものが帰属するということは難しいのではないでしょうか。
自治体において権利能力が認められるのは、まずもって自治体自身です。議会中継の映像は、自治体の職員が職務上作成したものであることから、自治体が著作者となり、著作権は自治体に帰属するといわざるを得ないでしょう。