2017.08.10 政策研究
100歳に達したら人生トライアスロン金メダル
元日本経済新聞論説委員 井上繁
かつて三池炭鉱のあった福岡県大牟田市の2017年4月1日現在の高齢化率は35.1%だから、市民3人に1人以上が65歳以上の高齢者である。これは福岡県の同時点の高齢化率26.2%や、全国平均の高齢化率27.4%(2017年1月1日現在)を大きく上回っている。
この高齢者都市に、100歳に達したら金メダルを贈呈するというユニークな条例がある。「大牟田市人生トライアスロン金メダル基金条例」である。条例は、1992年に市制75周年記念として制定し、施行された。条例は7条で構成しており、中身は一般の基金条例と変わらないが、発想が奇抜である。
条文を見よう。第1条には、「人生をトライアスロンにたとえ、100歳に達する高齢者に対し、その勝利者として金メダルを贈るとともに、より豊かな長寿社会の実現を推進するため、大牟田市人生トライアスロン金メダル基金(以下「基金」という。)を設置する」とある。この条例は、①第1条前段で長生きを人生の勝利者と断定している、②オリンピックなどと違い、競い合って1人だけがもらうのではなく、100歳以上で市に住民登録があり、市内に居住しているという条件を満たせば全員が金メダルの対象になる―ことに特徴がある。
人生をトライアスロンに例えた理由については「水泳、サイクリング、マラソンの3種目を連続して1日で行うという、大変な体力と技を必要とする厳しいスポーツで、別名、鉄人レースと言われる。これを人生に例えると、明治、大正、昭和、平成と激動の時代を1世紀にわたり生きてきたことが、山であり谷であり、まさに、トライアスロンレースである」というのが市の見解である。
第1条後段のより豊かな長寿社会の実現を推進することについては、特段の説明はない。だが、この目的については多彩な認知症対策に取り組むことに結実している。対策の目玉の一つが徘徊模擬訓練である。この訓練は、徘徊役が市内をあてもなく歩き回っている間に、警察、消防などが連携して、地域住民や介護サービス事業者などに情報伝達を行い、その情報を得た住民らがその人を探して声をかけて保護する訓練である。それを止めさせるのではなく、むしろ安心してうろつけるまちを目指している。
対策としてはこのほか、認知症コーディネーター養成研修、認知症啓発の絵本づくりとそれを使った絵本教室、小中学校での出前教室、もの忘れ相談検診、認知症の予防教室などを行っている。
市制75周年の1992年に市民から500万円の寄附があったことが条例制定のきっかけになった。これを基金に積み立てて運用している。低金利時代に入って基金の増加がほとんど見込めないため、基金の残高は2016年度末で209万6,900円と減少している。
高齢化が進んでこのところ金メダルの対象者はうなぎのぼりである。5年ごとに見ると、1997年7人、2002年18人、2007年22人、2012年47人と増え、2017年は60人となった。制度創設以来、2016年度までに657人の市民に贈呈した。
金メダルは直径7.5センチメートル、厚さ5ミリ、重さは18グラムである。予算の関係で、金は本物ではなく、金メッキで、予算は2,050円とか。金メダルのほか、額縁に入れた祝状とセットにして贈っている。
今年も敬老の日の9月18日前後に市長や職員が手分けして個別に訪問して渡す。市制100周年を迎えた今年は、11月19日の大牟田文化会館での記念式典で、市と同じ1917年3月生まれの該当者を招き「ご長寿100歳紹介」を行う予定である。
対象者から写真を提供してもらって大牟田市の100年と、金メダル対象者の100年を振り返るビデオを作成し、それも上映する。
ただ、1917年3月生まれの該当者は14人いたが、市が連絡したところ当日出席と回答した人は2人にとどまった。出席者が何人になるか、市の担当者はやきもきしている。健康な長寿者をどう増やしていくかが課題である。