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2017.08.10 政策研究

【フォーカス!】大学抑制、人づくり提案  7月末の全国知事会議

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国と地方の今。明日の議会に直結する、注目の政策をピックアップして解説します。

「実を取る」方向に転換

 全国知事会議が7月27、28の両日、「孤立社会から共生社会へ」「地方から日本を変える」をキャッチフレーズに掲げて盛岡市で開かれた。2011年の東日本大震災の後、被災地での開催は初となる。
 冒頭、知事会長の山田啓二京都府知事が「他者への配慮を欠いた対立と排他的な言動にあふれている。無縁社会という言葉が広まっている。2014年の知事会議で少子化非常事態宣言を出したが、状況は好転していない。限界集落から、限界都道府県、限界国家という言葉が視野に入る。孤立ではない、共生の社会を取り戻す」とあいさつ、「地方から日本を変えようではないか」と呼び掛けた。
 会議では、国民みんなで力を合わせ必ず復興(復幸)を成し遂げ、災害の教訓を次世代に継承していくとする「岩手宣言」を採択。地方創生を掲げる安倍政権に対しては、東京にある大学の定員増抑制と、交通網整備を求める地方創生回廊の早期実現を求める特別決議、希望出生率危機突破宣言を採択した。
 このほか、地方交付税の削減に反対する提言、憲法改正の動きを視野に入れた地方自治の確立に関する決議をまとめた。緊急的なものでは、ヒアリ対策、日本海有数の漁場である大和堆での北朝鮮漁船に対する取り締まりを政府に求める緊急要請もまとめられた。
主な決議とその背景にある問題、知事会議での議論をまとめた。
知事会議の様子知事会議の様子

岩手宣言

 「あらゆる災害に負けない『千年国家』を創り上げる」とする内容で、27日にまとめられた。宣言の柱は、次の3本となっている。
 ①被災地に寄り添い支え続ける=復興庁の被災県への移転も含めた具体的な行動により、復旧・復興が完全に成し遂げられるまで支援と交流を続ける
 ②災害を風化させず次世代につなげる=防災教育を充実させ、半公半民の地域のおける防災まちづくりのリーダーの設置の制度化により地域ぐるみの共助の体制を築き上げる
 ③あらゆる災害に負けない「千年国家」を創り上げる=事前復興のシナリオを用意して万一に備え、住宅の耐震化や「命のライン」の整備を進める
 その上で、「防災予算の拡充や『地方創生回廊』の早期実現、災害の備えから復旧・復興までを担う防災庁の創設も国・地方が総力を挙げて取り組む」としている。
 会議では宣言の審議の中で、2016年4月の熊本地震や今年7月の九州北部の豪雨など大災害の経験からさまざまな意見が出された。
 地震の経験から蒲島郁夫熊本県知事は「復旧や復興のために首長が何度も国に陳情しないといけないのは効率が悪い」などとして、災害支援制度の常設化、自治体が自主的・弾力的な運用ができるような災害救助法の見直し、住宅再建の後押しなどを求めた。
 井戸敏三兵庫県知事は「事前防災の体制が不十分。防災省のような機関を考えるべき」と提案、小池百合子東京都知事は「東京五輪は復興五輪の位置付けている」などと述べた。
 ただ、「千年王国」というネーミングには川勝平太静岡県知事が「キリスト教での終末論につながる」などと指摘、日本的には「とこわか(常若)の国とすべきでは」とクレームを付ける一幕もあった。
 宣言の採択を受け被災地の達増拓也岩手県知事は「東日本大震災からの復興にまだ時間がかかる中、マンパワーの継続的な確保が必要だ」、村井嘉浩宮城県知事は「被災地はまだ大変な状況が続いている。宮城県ではいまだ1万5500人が仮設住宅住まいを継続しており、各県からの職員派遣は2018年度までは継続してほしい」、内堀雅雄福島県知事 は「原発の廃炉や汚染水問題など課題は山積している。中長期的な財源確保、継続的な人的支援で協力をお願いしたい」などと、引き続きの支援を要請した。

地方交付税

 地方財政を巡る議論では、財務制度等審議会が麻生太郎財務相に5月に提出した建議(意見書)で、自治体が積み立てた基金が2015年度決算で21兆円まで増えた状況から地方交付税の削減を提案、税収減に陥った政府も削減を探る動きがある。
 これに対し地方側からは当然のように反対の声が上がった。三村申吾青森県知事は「基金残高が増えていると言われるが、財政調整基金などは大幅に減っている。増えているのは国の政策に基づく特定目的基金だけだ。断固反対だ」と発言、湯崎英彦広島県知事も「基金残高の増減は職員の削減、政策経費の削減で生み出している。交付税は地方固有の財源である。多大な誤解、プロパガンダがある。カウンターアクションを起こすべきだ」と提案した。
 高橋はるみ北海道知事も「切り詰めて財政運営している。まったく容認できない」、谷本正憲石川県知事も「暴論でしかない」などと批判、上田清司埼玉県知事も「筋の悪い話が多い。課題をきちっと出して、知事会としての意見をしっかり表明すべきだ」と述べた。
 この結果、「地方税財源の確保・充実等に関する提言」の「地方基金残高の増加に係る対応」の中では、基金の増加は、①国を上回る行財政改革や歳出抑制の努力を行う中で、災害や将来の税収の変動、社会保障に要する経費の増嵩(ぞうすう)に備えた財政運営の年度間調整の現れ、②国と違って赤字地方債の発行権限が限定されており、大災害や経済不況による税収減など財源不足は歳出削減や基金の取り崩ししかない、③地方交付税が法定率の引き上げによる制度本来の運用が行われていないまま毎年度財源手当てがなされ財政運営上の予見が困難である―などとして「断じて容認できない」としている。

森林環境税

 提言に向けては、国が「2018年度税制改正において結論を得る」とした森林環境税の扱いについても議論があった。個人住民税均等割に上乗せして徴収し、手入れされていない民有林の間伐に充てることを想定している。ただ、森林の少ない地域によっては、地元には還元されない税金であることから、都市対地方の形での対立もあった。
 黒岩祐治神奈川県知事は「森林環境税の創設には懸念がある」として反対意見を展開した。全国では37府県1政令指定都市が森林整備を目的とした独自の地方税を導入し、神奈川県も2007年度から水源環境保全税を実施していることから「国が森林環境税を創出すると、事業に重複が出る。納税者から税の二重徴収と捉えられかねない」と指摘。徴収額を1人1000円と仮定すると、県民は45億円の負担となる一方、県内の森林整備に回されるのは1.8億円程度となるとの独自の試算結果を披露しながら反対意見を表明した。
 それ以外の地域は、川の下流にある地域が上流にある地域の森林整備のために費用を出す「水源税」の流れをくむ考えだけに、おおむね賛成した。ただ市町村に森林整備の専門家がいない点から都道府県の関与が不可欠とする意見が相次いだ。
 この点から提言では「市町村への支援や市町村間の広域的な調整、補完的な役割を都道府県の業務と位置付け、市町村の事務の代行も可能にする」ことを求めた。さらに「個人住民税均等割の枠組みの活用を検討するなら、理念的には地方共同税的な性格を有するものととし、税収の全額を地方団体に配分する」ことを求めている。

大学移転

 知事会議では初日の27日、山本幸三地方創生担当相が出席し意見交換する一幕もあった。メインのテーマは「東京における大学の定員増の抑制」だ。抑制の話はもともと、知事会が2016年11月に首相官邸で開かれた知事会議で、東京一極集中を是正するため政府に要望したのがきっかけだ。
 政府のまち・ひと・しごと創生本部は今年5月、「地方創生に資する大学改革に向けた中間報告」をまとめ、まち・ひと・しごと創生基本方針や骨太の方針などに盛り込んでいる。
 この抑制については4都県知事が明確に反対の意見を述べ、足並みの乱れが露呈した。まず東京都の小池知事は「東京対地方の構図ではなく、共存共栄で日本全体の繁栄を目指すべきだ。海外の例を見ても、地方の大学をどう生かすかだ。抑制の立法措置は、学ぶ場所を選ぶ自由を奪う」と反発した。
 神奈川県の黒岩知事も「国際競争力を維持するため、東京の足を引っ張ることになる」と賛同し、新潟県の米山隆一知事は「私学のやることに行政介入すべきではない。ほとんど効果がないのではないか」、静岡県の川勝知事も「学問の自由を侵す。新しい文化をつくるのが大学の使命だ。学ぶ機会に制限をするのはおかしい」と述べた。
 これに対し、大村秀章愛知県知事は「普通は東京とタッグを組みことが多いが、この是正策は賛成したい。大学があることで東京の18歳人口は7万4000人の純増だ。程度の問題だ。経営の自立性、自主性はある程度その通りだが、この純増は程度を超えている」と賛成を明確化、阿部守一長野県知事も「高校を卒業すると8割が県外に出て行く。大学がないことで20歳前後の人口が極端に少ない。来年県立大学をつくり、県内の私学も公立化しているが、都会の大学が定員を増やすと大きな影響がある」とした。
 このほか村岡嗣政山口県知事は「進学時の流れに手を加えないと一極集中は止まらない」、伊原木隆太岡山県知事は「大企業と大学が東京に一極集中しており、それを変える時期に来ている」、浜田恵造香川県知事も「学問の自由と経営の自由とは違う。過度な集中は避けるべきだ。大学も公共財。最小限の規制が必要だ」などと、抑制に賛成を表明した。
 これらを受けた山本担当相は「一極集中は明らかに市場の失敗。公共財が集中しすぎて資源の再配分がゆがめられている。大学は田舎にあって問題はない」と持論を展開した。
 最終的には山田会長の仲裁案で、東京都などに反対意見があったことを明記することで決議はまとまった。具体的には、①地方大学の振興、東京23区内の大学の定員増の抑制に必要な立法措置を講ずる、②特色ある地方大学への改革のため新たな国の高率の財政支援制度に関する制度設計を行う、③地方大学の運営基盤を強化する―などとなっている。
 今後、国の検討会が最終報告をまとめ、法制化の作業に入る。ただ、東京23区内にある私立大学は既に十分な定員を持ち、必要に応じて不要な学部を廃止することもできる。留学生は定員には含まれない見込みとなっている。このため定員の抑制よりも、18歳人口の減少の方が、大学の経営に大きな影響を与えることは明らかだ。

地方創生回廊

 知事会議では「地方創生回廊」についても意見交換があった。この言葉は安倍晋三首相が2015年12月に講演で、外国人観光客の増加を踏まえ「次なる目標は年間3000万人の高みだ。観光立国を進めることが地方創生につながる。新幹線をはじめとした交通網で地方と地方をつなぐ『地方創生回廊』を完備する必要がある」と披露したのが始まりだろう。
 その後、2016年1月の施政方針演説、9月の所信表明演説にも盛り込まれた。「整備新幹線の建設も加速し、東京と大阪を大きなハブとしながら、全国を一つの経済圏に統合する『地方創生回廊』を整えます」といったように、鉄道や道路の整備色が強い発想だ。ただ、これ以降、首相からはあまり語られていないワードでもある。
 飯泉嘉門徳島県知事は「首都直下地震が起きた場合に、首都機能を西日本が持つためにも新幹線をしっかりと要望したい」、広瀬勝貞大分県知事も「地方をつなぐ高速道路や新幹線、空港の整備促進をしてほしい」などと述べるように、インフラ整備が遅れ気味の地域から整備促進の点から意見が相次いだ。
 このため「地方創生回廊の早期実現のための特別決議」では、①高速道路、リニア中央新幹線、整備新幹線の整備促進に加え国土のミッシングリンクを早期に解消し、地方と地方をつなぎ地域の特色ある発展を支える「地方創生回廊」を早期に実現する、②地域公共交通網の維持・確保、充実を図る、③道路整備事業財政特別措置法に定める国の負担、補助割合のかさ上げの継続―を求めている。
 地方創生関連ではこのほか「希望出生率危機突破宣言」もまとめられた。2016年の出生数が統計史上初めて100万人を下回ったことを受け、国民の出会い・結婚の希望をかなえる対策の強化、子育てに係る経済的な負担の軽減と男女とも育児しやすい働き方改革に向けた対策の強化などを盛り込んでいる。

地方分権・憲法

 安倍政権の憲法改正に向けた動きに合わせ、憲法に地方自治の考えを盛り込むことを求める「国民主権に基づく真の地方自治の確立に関する決議」も採択された。知事会としては早急にプロジェクトチーム(PT)を立ち上げ、秋ごろには憲法に盛り込むべき基本的な部分を示す考えだ。
 この決議は、①2019年の参院選に向け「合区問題」の抜本的な解決策の結論を得る、②「国民主権」の原理の下、地方自治の権能は住民から直接負託されたものであるとの観点から、憲法第92条の「地方自治の本旨」についてより具体的に規定するよう検討する―の二つの項目からできている。
 このうち①の合区の解消方法では、道州制を導入するか、憲法で参院を「地域の代表」として国民代表の衆院と区別することで1票の格差の議論の外側に置くという二つの方法がある。このためこの項目について、道州制の導入を掲げる松井一郎大阪府知事が反対、愛知県の大村知事も慎重意見を述べている。
 一方、東京都の小池知事は「人口が少ない地域も大きな声を出さないといけない。全体を考えるとより大きな声を出すべきところだ」と、合区に反対する意見を述べ注目された。
 ②の憲法に関し、これまで地方分権は国が持つ権利を分け与えられるという考え方で整理された。つまり、国民が国政に負託をして、その仕事の一部を自治体がしているという発想だ。これに対し、今回の決議について徳島県の飯泉知事は「国民には国民と住民の両方の顔がある。自治体は住民から直接授権している固有権説に基づいている」と説明した。
 この点について山田会長は記者会見で「この説を採るのは初めてのこと。憲法論としておもみのある決議である」と評価している。
会議終了後記者会見する山田会長ら会議終了後記者会見する山田会長ら

大和堆、ヒアリ

 知事会では現在進行中の課題についても、国の早急な対応を求める採決がなされた。一つは「日本海域における北朝鮮漁船による日本漁船への危険行為に対する日本政府の行動を求める緊急要請」だ。日本海のわが国の排他的経済水域(EEZ)に北朝鮮船籍とみられる漁船が今年6月には数百隻規模にまで達している。
 石川県の谷本知事は「漁業関係者は生活のために操業している。北朝鮮からの漁船も日本の領海に押し寄せてきており、政府として対応してもらう必要がある」と説明、日本海側の知事らからは「中国や韓国はだ捕したり、発砲したりするが、日本は何もしていない。北朝鮮の漁船にわが物顔で操業され、仕方なく漁場を移さざるを得なくなっている」などと厳しい状況を訴える声が相次いだ。
 緊急要請は、①海上保安庁巡視船、水産庁漁業取締船の常時配備、②違法操業船に対する実効性のある強力な取り締まり、③北朝鮮政府に対する厳重な抗議―などを求めている。
 また「特定外来生物ヒアリの調査および防除等に関する緊急要請」では、自治体と連携した対策の実施、環境省による早期の調査実施、ヒアリの侵入を防止するための対策強化などを求めた。
 小川洋福岡県知事は「博多港ではコンテナが一角に集められていたので早期発見、周辺地域への拡散防止につながった。国は広く情報を共有し、コントロールしてほしい」などと話し、環境省の対応が遅いことを批判した。
 また、今後の朝鮮半島有事に備えて、山口祥義佐賀県知事が「邦人保護に加え、大量難民が来たときにどう対応するのかを考える必要がある。入管、警察などの連携をしっかりして、国に対応してもらいたい」など、九州の知事を中心に有事に対する自治体の備えを強化するための情報共有、国によるガイドラインの提示などを求める意見も相次いだ。
 翁長雄志沖縄県知事も出席し「訓練の時間や騒音などに対して日本政府の力は及ばない」などとして、日米地位協定の見直しをあらためて訴えた。さらに「インターネットでは誤解に満ちた情報が流れている」と述べ、基地問題を分かりやすく解説した県の小冊子を紹介している。

小池知事デビュー

 全国知事会議では、東京対地方、都市と地方の対立が端々に顔を出すという知事会固有の課題もあらためて浮き彫りになった。デビューで注目された小池知事は東京23区の大学定員の抑制に反対する一方で、参院選の合区には「これから(人口減少もあって)もっと声を出さなければいけないところの声が届きにくくなるのは問題」とピシャリと、合区に反対する立場を鮮明にした。
 この言葉に「都民ファーストだけではなく、国民ファーストの見方もお持ちで大変心強く思っている」(石井隆一富山県知事)という賛辞も出ている。山田会長も「都知事がいないところで東京に不利なことを決めていてはその正当性が問われる。舛添要一前知事以降、都知事がフルに出席してもらって、助かっている」とコメントした。都知事がお高くとまることなく、東京に不利なことも含めて意見を述べるという、当たり前の知事会議になったことは歓迎していいだろう。
 議論では「闘う知事会」と呼ばれた頃の面影はなく、実務的な提案を次々とまとめていく〝仕事師集団〟といった雰囲気となっていた。安倍1強体制が揺らぎ始めているとはいえ、解散がない限りは当面は国政選挙もない状況で、各党の政策に働き掛けたり安倍政権への強い姿勢を示したりするよりは、地方創生などの政策の着実な実施を求めた方が得策とみているようだ。
 山田会長も記者団に対し「安倍政権もいろいろあって難しいときだ。地方創生や地方大学の振興、東京での定員抑制などは知事会が意見を提案して国に聞いてもらっている。地方の人手不足もあり、安倍政権が次の目玉に据える人づくりの政策もどんどん打ち込みたい。わーわーと言って対立するよりも、実を取りに行っている段階だ」と説明した。
小池都知事(中央)に音頭でラジオ体操をする知事ら小池都知事(中央)に音頭でラジオ体操をする知事ら

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