2017.07.25 政策研究
【フォーカス!】21兆円の基金をどう評価?
国と地方の今。明日の議会に直結する、注目の政策をピックアップして解説します。
地方交付税の削減が焦点
政府は7月20日、2018年度予算の概算要求基準を閣議了解した。歳出総額の上限は定めず、人材育成や地域経済の底上げに向けた特別枠を4兆円程度設けることで、新味を加える予定だ。
その中で地方自治体にとって焦点となるのは、自治体に配る地方交付税交付金の総額がどうなるかだ。財務制度等審議会が5月25日に麻生太郎財務相に提出した建議(意見書)には、自治体が積み立てた基金が2015年度決算で21兆円まで増えた状況を分析、交付税を抑制する考えを示しているからだ。
議論は平行線
地方自治体の基金には、財政調整基金、減災基金、その他の特定目的基金があり総額は2005年度が13.1兆円に対し、10年後には1.6倍で毎年8000億円のペースで増加している。
これについて財政審は「毎年度、赤字国債を発行して交付税を措置している現状を踏まえれば、各団体の基金の内容・残高の増加要因を分析・検証し、決算状況を地方財政計画へ適切に反映させることにより、国・地方を通じた財政資金の効率的配分につなげていく必要がある」と指摘している。
この問題は5月31日に首相官邸で開かれた閣僚と自治体代表が意見交換する「国と地方の協議の場」でも議論になった。全国知事会など地方6団体側は、基金の増加を理由に交付税削減につながる政府内の議論に「将来の公債償還、災害への備え、地方財政基盤に影響を与えるような施策への対応、高福祉社会に備えた持続可能で安定的な財政運営を図るために行革、合理化などを通じて必死になって経費削減に努め、基金を積み立てた」と説明した。
総務省の地方財政審議会も5月31日、「基金残高の増減の状況はさまざまであり、自主的な判断に基づく財政運営の結果として尊重されるべき。全体として基金残高の増加傾向をもって地方財政に余裕があるかのような議論は不適当」とする意見書を公表している。
これに対し協議の場で麻生太郎財務相は「国が借金をした地方交付税により充てている。この点だけは忘れないでもらいたい」と主張。さらに政府の経済財政諮問会議でも民間議員が「使い切れない財源が積み上がっている印象」「新たな埋蔵金と言われかねない」と指摘する。地方側と国の主張は平行線のままだ。
支持率次第
今後、8月の概算要求を終え、年末の予算編成まで地方交付税の減額を巡る神経戦が続くことになる。安倍晋三首相が交付税の削減を容認するかが注目される。
むろん、削減は財務省の強い意向がある。安倍政権は財政再建を目指し「プライマリーバランス」(PB)と呼ばれる基礎的財政収支を2020年度に黒字化する目標を掲げている。これに対し最新の内閣府の試算では、高い経済成長を続け、消費税率を2019年10月に10%へ引き上げたとしてもまだ8兆円超の赤字が残る見通しとなっている。経済成長による税収の伸びが落ち込んでいるためで、2015年度に比べ2016年度の税収は8000億円減少し、55兆4686億円にとどまった。マイナスになったのはリーマン・ショックの影響を受けた2009年度以来となる。それだけに財務省は少しでも歳出を切り詰めたい、PBの黒字化に道筋を付けたいと考えるだろう。
ただ、地方税収も同様に7年ぶりの減少になっている。自治体側は交付税の削減に予防線を張る。そうなると、やはり安倍首相の判断となる。その際に最も大きく作用するのは、政権の支持率、そして安倍政権が東京五輪までの長期政権を目指すかだ。
自民党は7月2日の東京都議選だけでなく23日の仙台市長選でも惨敗し、内閣の支持率は危険水準ともいわれる30%を切っている調査もある。支持率の回復のため首相は、友人が理事長を務める学校法人「加計学園」(岡山市)の獣医学部新設計画を巡って7月24日、25日には国会の閉会中審査まで開いた。審議では安倍首相が「国民の疑念を晴らすため、何ができるかは真剣に考えたい」などと低姿勢に終始した。
だが、説得力は乏しく、内閣改造を経ても支持率の急激な回復は見込めない。支持率の低空飛行が年末まで続けば、2018年は衆院選の年になるだけに、憲法改正などの悲願達成にこだわるなら、自治体を敵に回さないように、交付税の削減はしない方向に傾くのではないか。