2017.07.10 政策研究
【フォーカス!】所有者不明の土地面積、九州超え
国と地方の今。明日の議会に直結する、注目の政策をピックアップして解説します。
政府として早期の対応を
民間有識者でつくる所有者不明土地問題研究会(座長・増田寛也元総務相)は6月26日持ち主が分からない土地が全国で約410万ヘクタールに上り、総面積では九州を上回るとする独自の推計結果を発表した。
この研究会のメンバーには顧問として加藤勝信1億総活躍担当相がいる。総務省、法務省、農林水産省、林野庁、国土交通省もオブザーバーとして参加しており、政府の取組と連動している。所有者が不明なため公共事業が実施できないなど影響が出ており、戦略的な対応が必要となる。
2割の土地が不明
所有者不明とは、不動産の登記簿に現在の所有者が記されず、調べても誰が持っているか直ちに判明しなかったり、分かっても所有者に連絡がつかなかったりすること。具体的には、①所有者台帳が更新されておらず、台帳間の情報が異なるため土地所有者の特定が直ちにできない土地、②所有者は特定できたが、転出先、転居先など所在が不明の土地、③登記名義人が死亡しており、その相続人が多数となっている土地、④所有者台帳にすべての共有者が記載されていない共有地―と定義できる。
地籍のある土地のうち20.3%が不明で、種類ごとでは林地が25.7%と最も多く、次が農地の18.5%、宅地の14.0%となっている。
この推計の基は、国交省が563市区町村の62万2608筆でサンプル調査した結果、登記簿上の所有者の所在が不明な土地は20・1%だったことや、法務省の同様の調査で大都市では1割以上が50年以上前の登記だったこと、農水省の相続未登記の農地は全農地の20.8%などの結果を基に、全国規模で初めて推計したものだ。
急拡大の懸念
所有者不明の土地が増えているのは、不動産の登記は任意で、その重要性が十分に認識されていないことが主因だろう。だが、その背景には農山漁村など地方部の歴史的な役割が変わったことや時代の変化が大きく影響していると言える。
つまり、明治以降、人口が増加し土地の経済的な価値が高まっていた頃は、先祖伝来の土地を相続する意識は高かった。それが戦後、農山村を中心に働き手が都市に流出し、近年は人口も減少局面に入っている。
そうすると地価が下がり、産業構造の変化で利用価値も低下した山林や棚田などを引き継ごうという意識も薄れる。相続人を決めないまま放置したり、承継しても登記しなかったりする傾向が強まることになる。
この不明の影響は大きい。まず、自治体による固定資産税の徴収ができない恐れが強まる。次に、公共事業で用地取得をする際に、所有者を捜すのに膨大な時間や費用がかかることになる。この結果、道路建設やまちの再開発、農地の集約化、森林の伐採、災害復旧などで事業が遅れたり、不明土地を避け計画を変更したりするケースも出てくる。
地方から都会に出た団塊の世代が高齢者になった。今後、彼ら不在地主が代替わりし大量相続の時期を迎える。このまま放置すれば所有者不明の土地がネズミ算的に急拡大するという危機感を持ち、政府は早急に対策をまとめなければならない。
来年の国会で対策法案
対応策として政府は2016年3月、「所有者の所在の把握が難しい土地への対応方策」をまとめた。さらに市町村や森林組合などに向けた「探索・利活用のためのガイドライン」を策定している。まず最も重要なのは、不動産登記の促進策だ。死亡届が市町村に出された際に、相続の登記をしてくださいと伝えることから始めなければならない。
所有者が不明のままでも事業実施のためできることは多い。例えば、東日本大震災からの復興事業では土地の財産管理人を選任して進めた。都道府県知事は農地の利用権を設定できる。これらのノウハウを自治体と共有することで、ある程度の対応は可能だろう。
不明土地問題研究会ではこれから、①所有者の探索の円滑化=各種台帳間の連携、マイナンバー・地籍調査の活用、②所有者不明土地の管理・利活用=新制度の検討、外部不経済の防止、③所有者不明土地の増加防止=登記の義務化、地理空間情報の整備、④土地所有の在り方の見直し=所有者責務の明確化、放棄や寄付土地の受け皿整備―を検討し、年内に最終報告をまとめる予定だ。
政府も6月9日に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2017」で、不明土地の問題について「地域の実情に応じた適切な利用や管理が図られるよう、共有地の管理に係る同意要件の明確化や、公的機関の関与により地域ニーズに対応した幅広い公共的目的のための利用を可能とする新たな仕組みの構築、長期間相続登記が未了の土地の解消を図るための方策などについて、関係省庁が一体となって検討を行い、必要となる法案の次期通常国会への提出を目指す」と明記した。
その上で「登記制度や土地所有権の在り方等の中長期的課題には、関連する審議会等において速やかに検討に着手し、経済財政諮問会議に状況を報告する」としている。
土地情報の一元化も
最後に考えられる方策と、課題をまとめておきたい。まず、不動産登記の義務付けも視野に入れるべきだ。ただ罰則を科すか、登録免許税を減免する誘導策が有効かは慎重な検討が求められるだろう。
所有者の所在を早く見つけるには、市町村が持っている固定資産税の情報を使うこともできる。登記はしていないが、市町村からの連絡を受けて税金を支払っている相続人もいるからだ。この固定資産税の納税記録について、空き家対策特別措置法に基づいて空き家の所有者を特定するために使うことができる。
土地所有者の探索でも登記簿や住民票などで分からなくても、納税記録を使えばスムーズに見つけられる可能性がある。このため同じ自治体の別の組織や、他の行政機関がこの納税記録を使えるように、地方税法上の守秘義務を外すための法的な裏付けをつくる必要がある。
また法務省の不動産登記に加え、土地の種類や利用目的によって農水省や林野庁、総務省などが土地情報を縦割りに持っている。これらを一元化し、利用しやすくすることも重要となる。
登録免許税や固定資産税といった土地の登記や土地保有の際の税負担を理由に、相続したくない人もいる。こういった手放したい土地や所有者が不明となって使われない土地を、所在する市町村や、法人格を取得した自治会など地元の認可地縁団体の管理に移す制度の導入も有効だろう。これによって土地の有効利用を図ることができるからだ。