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2017.06.26 議会改革

『地方議会に関する研究会報告書』について(その24)

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首長と住民との間の「日常的なコミュニケーション回路」

 そもそも、住民参加を、住民との間の「日常的なコミュニケーション回路」と捉える限り、住民代表であり公選職政治家である首長に対して、住民との間の「日常的なコミュニケーション回路」を持つことを否定することはできないだろう。つまり、首長側の住民参加は、不可避なのである。しかし、ここでは重要な問題があり得る。
 ここでいう「首長」とは、執行機関(執行部の長/行政職員の最高上司)としての首長なのか、公選職政治家である首長個人なのか、ということである。議会側の住民参加でいえば、前者は議事機関としての議会の場における住民意見聴取であり、後者は個々の政治家議員が後援会/支持者などの住民とコミュニケーションをすることである。
 仮に議会側の住民参加のイメージが後者であるならば、首長側にとっても、後者に限定することは充分にあろう。政治家としての首長個人が、後援会その他で、住民/支持者と直接にコミュニケーションするのは、ある意味で当然である。しかし、それは自治体の執行機関としての「公務」ではなく、あくまで、政治家としての「政務」又は「政治活動」、「党務」、さらにいえば「選挙事前活動」にすぎない。
 そのような「政務」等に、どこまで公金を支出してよいかはともかく、少なくとも、行政組織・職員を動員することは不適切かもしれない。ましてや、「審議会」という附属機関にすることはあり得ないが、附属機関ではない住民参加会議体に費用弁償をしたり、役場の建物を使ったり、職員を事務局として配置したりすることは、あってはならないことなのかもしれない。それは全て、政治家首長の個人的な政治活動として、「政治資金」によって、政治家首長自身の事務所・秘書たちで運営すればよい、ということになる。
 しかし、自治体での住民参加の運用は、執行機関としての首長と、公選職政治家個人としての首長が、必ずしも区別されずに、なし崩し的に運用されていることになる。執行機関としての首長の住民参加であるならば、議事機関としての議会において、住民参加をしなければならない。政治家個人としての首長の住民参加であるならば、政治家個人としての議員が個々に住民参加をすればよい。とはいえ、大概の発想は前者であろう。政治家個人としての首長が、あたかも自治体の「公務」のように住民参加を行うのはおかしいからであろう。ならば、政治家個人としての議員が、いくら住民との間で「日常的なコミュニケーション回路」を持ったとしても、それは住民参加とは呼べないだろう。
 実際、首長側でも、執行機関としての住民参加と、政治家としての住民との「日常的なコミュニケーション回路」が区別されるような動きが出ている。この典型が、マニフェスト作成と評価である。マニフェストは、政権公約である以上、政治家の文書である。現職首長が、候補者となって掲げるマニフェストであっても同様である。つまり、マニフェスト作成に行政組織・職員が関与するのはおかしいわけである。したがって、現職首長の任期中の業績を評価するマニフェスト評価も、あくまで政治家としての現職首長の「政務」であって、自治体として「公務」でマニフェスト評価をすることはできない。このように、首長側でも「政務」と「公務」の区別が意識されつつある。
 したがって、議会側の住民参加が仮に「公務」であるならば、政治家個人として住民と「日常的なコミュニケーション回路」を持っているかどうかは、住民参加とは関係がない。あくまで、「公務」としての住民参加は、議事機関の活動として行うしかない。

「日常的なコミュニケーション回路」のぜい弱化

 議会側の住民参加が問題となるのは、「政務」か「公務」か、という峻別(しゅんべつ)・整理だけでなく、そもそも、どちらにせよ実質的なコミュニケーションが成立しておらず、住民意向の把握と反映が充分になし得ていないのではないか、という実体的な問題意識もある。『報告書』でも、①「地方議会が住民構成と乖離している」こと、②「住民が個々の議員とのコミュニケーション回路を持つことは難し」いこと、③「個別の利益の実現を図るような議員の活動は慎むべき」ことが、触れられている。
 ①は、個々の議員が住民とコミュニケーションをしたとしても、そもそも、住民構成と議会構成がかい離している以上、公平なコミュニケーションが成立し得ないということである。自分と著しく異なる議員に対して、コミュニケーションをしたとしても、通じないということである。また、②は、大規模自治体になれば、そもそも、議員1人当たりの住民数は膨大になるのであって、実質的に大多数の住民は議員にアクセスできないのである。「日常的なコミュニケーション回路」が成り立つのは、小規模町村のように、議員1人当たりの住民数が少ないときだけである。さらに③は、仮にコミュニケーションが成り立つにせよ、そのような「口利き」はむしろない方がよい、という判断も根強いことを指す。
 つまり①②は、実態としてコミュニケーションは成立していないというもので、③は規範的にコミュニケーションは望ましくない、というものである。であるならば、政務としての「日常的なコミュニケーション回路」の充実は無理であり、議事機関としての議会そのものへの住民参加を模索するしかない。しかし、すでに述べたように、『報告書』は、「住民の意見を聴取する場合は限られた手続による」とする。つまり、「政務」としての「日常的なコミュニケーション回路」にも、「公務」としての議事機関としての議会への住民参加にも、どちらにも舵(かじ)を切りきれないのである。

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