2017.05.25 議会改革
『地方議会に関する研究会報告書』について(その23)
情報発信の状況
『報告書』では、「(1)情報発信の状況」として、現状を簡単に記述する。それによれば、各種媒体別に着目して、
・議会に関する基本情報は、議会ホームページで提供されている(都道府県・市区議会では全団体、町村議会では9割弱)。
・議会広報紙では、議会における審議情報などが提供されている(都道府県議会で約7割、市区町村議会で9割程度)。
・議会審議の公開の観点から、インターネットによる会議中継やビデオ・オン・デマンドによる提供がされている(都道府県議会ではほぼ全団体、市区議会ではインターネット中継が約5割、ビデオ・オン・デマンドが約6割、町村議会は増加傾向にあるが導入は少数)。
・テレビによる会議中継は少ない(都道府県議会で約5割、市区議会で約4割、町村議会で約2割)。
というのが状況である。
もっとも、このような各種媒体での提供がされていたとしても、住民が目にしているとは限らない。その意味では、いわゆる「アクセス数」、「視聴率」などが気になるところではあるが、『報告書』では必ずしも触れられていない。いうまでもなく、アクセス数・視聴率がとれる番組であればスポンサーが付くわけであるから、基本的には閲覧・視聴は多くはないだろう。むしろ、閲覧・視聴がゼロであったとしても、情報入手の機会を保障すること自体が重要であるかもしれない。
とはいえ、誰も閲覧・視聴しない情報提供は、提供されていないことと同じかもしれない。いわば、「アリバイ」としての情報提供に陥る可能性もある。それでは、『報告書』のいうところの情報提供の意義としての、意思疎通や住民参加の前提には寄与しないことになる。むしろ、住民が議会不信を示したときに、「そういう住民は議会のことを知っているか。知らないで批判するな」と逆ギレに使えるだけである。
情報発信の方向性
しかし、情報発信自体の意義は疑われていないので、『報告書』は、「(2)情報発信の充実の方向性」を論じる。それによれば、
・住民に対してのみならず広く提供する。
・議会活動を報告書のような形式で公開する。
・議会から発信された情報に対する住民の関心が低いことが課題であるので、議会活動の結果報告だけではなく、審議中の議案に対する住民の意見聴取等を行うような情報発信が有効である。
・議会の役割という点から、予算・決算という重要テーマを通じて住民に認識してもらうことが、重要な切り口になる。
などが指摘されている。
報告書とすることは、読者としては便利であるともいえるが、そもそも、読みたいと思う住民その他の人々がどれほどいるかは、疑問である。冊子体は入手が面倒であるから、結局はホームページが重要である。しかし、電子画面上では読みにくいので、冊子体の方が便利ではある。こうして、堂々巡りで、いずれにせよ読みにくいのである。
議会活動の結果だけを報告されるのは、通常は無意味である。結果として自治体運営にどのように反映されたかは、むしろ、執行部からの情報を得た方が、意味があるからである。議案に対して議会でどのような議論があり、どのような賛否で採決されたのかということ自体は、必ずしも重要ではない。住民として関心があるのは、決定する前に情報を入手し、それに働きかけ、あるいは、それを前提に準備することである。その意味では、審議中の案件の方が重要であるという『報告書』の指摘は、正鵠(せいこく)を得ていよう。
しかし、多くの議案は、執行部内で検討され、議会に上程されると通常はそのまま可決される。したがって、議案の審議中の情報も、現在の議会の審議実態を前提にすれば、ほとんど意味がない。住民にとって大事なのは、執行部内で検討されている意思形成途上の情報なのである。議会審議に関心が向くとすれば、それは情報提供のあり方が改善されるときではなく、意思決定が議会で実質的になされているときである。改革すべきは情報提供のあり方ではなく、意思決定のあり方それ自体である。
同様に、予算・決算の情報提供に意味がないのは、現状の予算・決算のあり方に由来する。予算書の款項目節では、いかなる事業を行うのかは、ほとんど分からない。もちろん、質疑や補足資料によって、実際にはどのような事業を想定して予算書の数字ができているのかは明らかになるので、予算審議それ自体には現状では意味がある。しかし、これは、はじめから執行部側がきちんと詳細に、いかなる事業を具体的に進めるつもりなのかを、予算書の附属資料に付けておけば済むことである。議会審議で具体的な事業の採択が決まるのではなく、首長査定などの執行部内の予算編成において採択が決まっていた具体的な事業が、予算書の記載では秘匿されているので、それを議会質疑で小出しに開示されるというだけである。決算も同様である。
【つづく】
(1) 『報告書』そのものに忠実に表現すると、「Ⅵ」とローマ数字が裸で記載されており「第Ⅵ章」という表記ではない。しかし、本稿では、単に「Ⅰ」「Ⅱ」……では分かりにくいので、章立てとみなして、「第Ⅰ章」「第Ⅱ章」……と表記する。その下位項目は「1」「2」……であるが、「第1節」「第2節」……と表記する。さらにその下位項目は、(1)①となっている。
(2) カッコ付数字は『報告書』第Ⅵ章第1節の項目を示す。