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2017.05.25 政策研究

第12回 住民自治の進展(下)――地域経営の新たな手法――

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(2)直接民主制は補完か
 直接民主制を間接民主制の単なる補完だとする考えは、地方自治の組織と運営の解釈にとって有力な行政法学者の解釈とも関連がある。それによれば、間接民主制が基本であって、法定の直接民主制はあくまで間接民主制を「補完しその欠陥を矯正する例外的制度」である(原田 2005:76)(4)。この議論は、直接民主制を住民投票に矮小(わいしょう)化した上で、その直接民主制では議会や首長の責任が曖昧となり、「制度の基本を揺る」がすことになるし、「目先の利害やムードに左右されがちな住民投票」では総合行政の維持や「健全な地方自治の発展」は困難となる、と批判する。つまり、「間接民主制の補完としての直接民主制」論である。
 また、地方自治法解釈に大きな影響を与えている論者は、「普通地方公共団体の運営は、基本的には住民多数の意思を反映して選任された者によるべきもの(間接民主制)であるから、当局者の施政が適切でなく、民意を反映しないとして、直接請求制度によってその是正を行うとしても、それには自ら一定の限度があるべき」であるという。間接(代表)民主制が基本であることを強調し、ことさら直接請求制度に対する制限の合理性を指摘する。これは、「間接民主制の補完としての直接民主制」論に属する(松本 2015)。
 しかし、国政の論理を離れて、憲法や地方自治法の論理や実際の制度や運動を解読すればするほど、こうした補完や例外としての直接民主制という消極的理解を再考せざるを得ない。地方政治の場では、住民が自治体の政策決定に国政(中央政治)以上に積極的にかかわることが想定されている。この点の解釈次第で、住民自治の理解と内実は大きく変わる。

(3)直接民主制を根幹とした地方自治論
 地方政治には、国政とは異なる直接民主制の制度が積極的に導入されている。この意味や歴史的経緯を考慮すれば、地方政治は間接民主制の補完に矮小化できない論理構成となっている。
 一院制としての議会を住民がチェックすること、さらには立法(条例制定)にも公職者の選出・解職にも住民が直接かかわれること、これらを想定すれば、住民、議会・議員、首長という三者間関係を前提とした政治、住民主導の政治が地方政治であるといえる。国政の場合、制度として国民主権は選挙の際にのみ機能するものであるのに対して、地方政治の場合、住民が積極的に政治に参加する構成となっていることは強調されてよい。
 このような直接民主制を強調する理解は今日突然に現れたものではない。すでに指摘したように、憲法や地方自治法に埋め込まれた様々な制度を解読することによってだけではなく、歴史的経過を踏まえれば、直接民主制を間接民主制の単なる補完とする理解は採用できない。
 戦後、日本の地方自治制度に、アメリカ合衆国の地方制度の理念がすべてとはいえないまでもその神髄が導入されたことからも、アメリカ流の自治とは何かを問うことが求められる。それは、「住民の、住民による、住民のための統治」であり、「地域住民による自治(local community autonomy)」たるアメリカ流の「地方自治(local self-government)なのである」(小滝 2005:163)。
 こうした当時の雰囲気を伝えるものとして『新地方制度の解説』がある(キーワード、参照)(5)

☆キーワード☆
【直接民主制の補完としての間接民主制】
 「自治の重要な要素は住民自らの手によって自治を運営することである。ただ常時多数の住民全部が、その運営にあたることが困難なので、その代表者を通じてこれをあたるようにさせるにすぎない。しかも代表機関の少なくとも最高の責任者は住民自ら選ぶことがその本旨からすれば当然であり、またこれらの代表者に代表者たるに相応しくない事態が生じたならば、これを更新するためのなんらかの方法があってしかるべきである。これが住民による地方団体の首長の直接公選ならびに自治立法、事務監査及び市町村長等の解職及び市町村議会等の解散の請求権を認めた理由である。このように市町村行政等に直接参与する方法を認めることによって、常時市町村等の自治の運営に対する自覚と責任を喚起せしめ、そしてまた自治に対する関心を深くすることによって、真に住民による自治の本当の姿が現れるであろう。従来の団体自治に偏った地方自治の観念が、むしろその本来の姿である住民自治の観念の確立によって均衡のある発達を期待できると思われる。」(鈴木俊一氏執筆部分、現代文にしている―引用者注)(自治研究会 1946:25)。

 直接民主制が根幹であって、代表制は便宜的なものであること、だからこそ条例の制定改廃請求(「自治立法」と明確に呼んでいる)、代表者の解職請求、議会の解散請求が制度化されたこと、そして「本来の姿である住民自治の観念」が自治にとっては重要であることが喝破されている。
 このような、条例の制定改廃の直接請求や、首長・議員の解職や議会の解散の直接請求、町村における住民総会、特別法の住民投票などの直接民主制があるとともに、次の要素を考慮して、直接民主制は補完どころか根幹を占めているという主張もある。①議会や首長が住民の要求を満たし、住民が代表機関を常にコントロールできる条件を整備していること(首長・議員の解職や議会の解散の直接請求や条例の制定改廃の直接請求とともに、直接選挙と選挙の際の公約が条件となる。ただし、直接選挙においては住民の意思を鏡のように反映する社会学的代表制が必要だが今日そうなってはいない)。②そもそも主体はそこに住む住民であり、国政の国民とは異なること(外国籍住民も選挙権を有する可能性がある)。これら2点は現在十分には展開されていないとはいえ、原理としては存在している(杉原 2002:159−165、180−188)。
 杉原泰雄は、これらの要素を根拠に「直接民主制の代替物」として間接民主制を位置付けている。「『人民主権(有権者総体としての市民を統治権の所有者とする原理、人民による、人民のための政治の原理―引用者注)』を原理としているから、地方公共団体においては、住民による政治の基準(条例等―引用者注)の決定(代表制をとる場合、その代表制は住民による基準の決定を保障する『直接民主制の代替物』としての内実をもつものでなければならない)および住民によるその執行の担当者の選任と統制が求められる」(傍点原著者―引用者注)。間接民主制を直接民主制の代替物だという理解は、政策過程における直接民主制の役割を高めることの理論的根拠になる(杉原 2002:52)(6)
 直接民主制が根幹だというこの理解は、今後の住民自治を考える場合、従来の直接民主制を軽視したり消極的に理解する議論に対して、新たな視点を提供している。

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