2017.05.12 政策研究
第1回 百条調査はじめの一歩
3 百条調査の調査事項
百条調査の対象は、当該普通地方公共団体の事務です(自治法100条1項)(5)。そして、議会が持つ役割に照らし、次のような事項が調査対象ないし目的として考えられます。
① 条例制定等のための情報収集(議案調査)
② 行政監視機能の発揮(6)
③ 報道機能ないし議会の権限創設
①は、米国議会において、ルーチンに行われている型の調査です。米国の大統領と議会は厳密に分離されているので(厳格な三権分立。政府の職員は、議会への出席の権限も義務もありません)、議会は、法案審査のための小委員会を設け、又は公聴会を開催し、政府の職員を証人として召喚し、証言をさせ、法制定のための正確な情報を取得し、その後、委員が逐条審査をして、法案を完成させていくのです。我が国では、中央政府、自治体のいずれにおいても、かかる局面で証人尋問を用いるという観念がほとんどありませんが、議員の本旨はlawmakerであることからすれば、興味深い使用例といえます。冒頭の架空の事例でいえば、事実の隠蔽を問題として取り上げるのではなく、むしろ、議会がこの尋問を公文書の適正な管理に関する制度設計をしていくために用いることができるでしょう。
最も頻回な使用例は、②といえましょう。前記の事例のほか、自治体職員の事務執行の不正疑惑の解明等のために実施されます。百条調査をどのように効果的に用いるかという問題はあるにせよ、訴追の威嚇力を背景にした百条調査が、執行部の不正又は不当な事務執行等に光を当てる上で、有益な武器になることは疑いがないと思います。ただ、その動機・背景として、首長の政治手法に対する議員の不信や次回首長選挙への思惑が存在して、百条調査の政治利用という現象があることは、指摘しておきたいと思います。
最後に、③です。自治法100条1項の「当該普通地方公共団体の事務」とは、現行の法令、条例に基づき現存する事務に限定されないと考えられます。世間の耳目を引いている社会問題等であって、これへの対処のために条例を制定して自治体として取り組んでいく可能性があるものや、同法96条2項に基づき議会の議決事項に追加すべきと考えられる事項もまた、調査の対象たり得ると考えます(7)。例えば、NPOなどの衣をまとった反社会的勢力による扶助費の搾取等の貧困ビジネスが報道された場合には、自治体としてその排除を新たな事務として起こすことが考えられます。その際、当該搾取の実態を解明し、有権者に情報提供し、対策の樹立へ向けて広く意見を求めていくということがあり得ます。この際、NPOの理事長を証人として喚問するということもあり得ましょう。
このように見てくると、百条調査の対象は非常に広範であって、調査対象の設定の局面で、範囲を踏み出すことはあまり考えられません。ただ、具体的な調査を行う特別委員会を設立し、又は常任委員会に権限を付与した後、その委員会での質疑等に際し、調査事項を逸脱することがあるので、この点については、追って言及することとします。