2017.05.12 政策研究
第1回 百条調査はじめの一歩
2 百条調査権と議会のその他の調査活動
百条調査権とは、地方自治法(以下「自治法」といいます)100条に根拠を有する議会の調査権です。
【地方自治法100条1項】
普通地方公共団体の議会は、当該普通地方公共団体の事務〔中略〕に関する調査を行うことができる。この場合において、当該調査を行うため特に必要があると認めるときは、選挙人その他の関係人の出頭及び証言並びに記録の提出を請求することができる。
地方議会は、このような強制力を伴うこわもての調査以外に、①議会(本会議)が議案審査のために行う提出者に対する質疑や本会議における一般質問、公聴会の開催、参考人招致、②議会運営委員会、常任委員会、特別委員会が持つ所管事務調査権(自治法109条2項〜4項)、③事務の執行についての検閲・検査(同法98条1項)、④監査委員に対する監査の請求(同法98条2項)等の調査権限を持ちます。特に②は、執行機関に対し、委員会として、議案の審査をする上で必要な参考書類等の提出を求め、法令や条例の執行に関する解釈運用を質(ただ)す委員会質疑等によって、ルーチンに実行されているものです。百条調査もその他の調査も、広い意味で、執行機関の事務の執行に対して、議会として監視的機能を果たすためのものだという共通性を有しています。
次に、常任委員会等の所管事務調査と百条調査の相違点に着目すると、常任委員会等の所管事務調査権は、自治法109条ですでに付与されているものであって、百条調査と違い、担当する各委員会が本会議から特段の権限の設定を要するというものではありません(1)。そして、その調査方法は、長その他の執行機関に対する質疑や書類の提出の求めであって、罰則による強制を伴わず、参考人や公聴会を除き、外部の者に対する質疑や資料要求をほとんど予定していないといえましょう。そして、法制的な違いのほかに、実際上の大きな違いとして、百条調査の特に証人尋問は常にぶっつけ本番であるのに対し、所管事務調査は、場合によっては事前に答弁調整が行われ得ることです。この意味で、①や②は、比較的、平時における日常的な行政監視機能の発揮ということができ、かつ、本会議や委員会は、よくも悪しくも、必要な情報を、執行機関によってきちんと整序された形で取得することができます(2)。
③の検閲・検査は、自治体の事務(一定のものを除く)に関する書類や計算書(証拠書類を含む)を検閲して、事務の管理、議決の執行、出納を検査するものです。例えば、自治体の支出に不正・不当の疑いがあるという場合に、議会の議決を経て、担当課や財務当局が保有する資料を提出させて、検閲・検査をします(3)。調査委員会を設置して検閲・検査を委任することもできますが、本会議で議決して、議長名で提出を命じるのです。強制力がないことは、所管事務調査と同様です。
こうして見てくると、百条調査のもう少し掘り下げた説明に入る前に、次のような調査権限の行使の展開が考えられることを指摘しておきましょう。すなわち、議会は、執行機関の行為に疑義を持った場合には、第1段階として、本会議での一般質問や委員会での質疑や資料要求で事案の解明を進め(それなりに、きちんとつじつまを合わせた資料が提出されることでしょう)、提出資料におかしな点があり、又は不誠実な答弁があれば、第2段階として執行機関に対し、関係書類の検閲・検査をし(生の原資料を検閲するので、事実関係の解明に役立ちます)、それでも不明な点があれば、最終的に、事実関係を知り、又は事実関係を明らかにする念書やメモを保有する個人(首長個人、財務課長個人、あるいは外部の人)に狙いをつけて、その者を証人として招致し、偽証の制裁がある下において証言を強制し、又は書面の提出を命ずるという流れが考えられます(4)。