地方自治と議会の今をつかむ、明日につながる

議員NAVI:議員のためのウェブマガジン

『議員NAVI』とは?

検索

2017.05.12 政策研究

「森の幼稚園」に見るデンマーク式幼児教育

LINEで送る

元日本経済新聞論説委員 井上繁

 デンマークの首都、コペンハーゲン近郊に位置する人口5万4,000人のヴィドゥビェ市。その市街地で活動する「森の幼稚園」ソルゴーエンとカスタニアフースの共通の門に近づくと、子どもたちのはしゃぐ声が耳に飛び込んできた。奥の庭に回ると20人くらいの男女の園児たちが上半身裸で草地や砂場を駆け回っていた。わざと水たまりに入って泥まみれの子もいる。この日は保護者の夏休みに合わせて休んでいる子もいて普段より人数は少ないという。
 デンマークでは、日本のように幼稚園、保育園といった区分はない。訪問した施設の場合は、年齢で区別しており、カスタニアフースはおおむね0歳から3歳児が36人、ソルゴーエンはその上の年齢の96人が通う。両者は役割が厳密に分かれているわけではなく、子どもを預かる時間などは同じである。
 両施設とも、園内には森林など自然が残り、子豚、ヤギ、鶏、蛇、インコなど多様な動物を育てている。森林での遊びや、草花の栽培、動物の飼育などを通して生き物との触れ合いに力を入れている。
 こうした森の幼稚園は1950年代後半にこの国で誕生した。その形態としては、園舎が森の中にある園、バスで毎日、あるいは定期的に森に出かける園などがある。デンマークの幼稚園がすべて森の幼稚園を標榜(ひょうぼう)しているわけではないが、森林に恵まれたこの国では、一般に就学前から自然教育に重点を置いている。
 ソルゴーエン、カスタニアフースともに、1957年の設立のため“老舗”のひとつである。両園が管理する森には、他の幼稚園からも園児たちがやってくる。森の幼稚園の活動は、その後、スウェーデンやドイツなどに広がった。日本にも「森のようちえん全国ネットワーク」がある。
 デンマークの女性が産後1年で安心して職場復帰できるのは、各自治体が責任を持って子どもたちを幼稚園に送り込んでいるためである。ただ、すべて自治体まかせというわけではなく、保護者は優先順位を付けて希望を出せる。市はその希望を調整して振り分けており、この国に待機児童問題はない。
 就学前の幼児教育の体制づくりについては基礎自治体が責任を持っている。ヴィドゥビェ市の場合は私立幼稚園はなく、すべて公立である。ただ、園の経営は独立採算制で、赤字の場合は市が補塡するものの、翌年その分の節約が求められる。
 幼児教育の計画は、基礎自治体ごとに作成している。ヴィドゥビェ市では、子どもの成長と可能性を追求する、社会性を身に付ける、自然に対する理解を深める、芸術、文化に親しむ、言葉を覚える、体を活発に動かす――の6つを共通の目標にしている。両園のT・ヘプスゴー園長によると、これはこの国のほぼ標準的な計画という。これに沿って、各園が特色ある活動を展開している。
 両園の場合、小学校や保護者との連携に力を入れている。特に、5歳児以上については義務教育の準備期間と位置付けており、就学前には小学校に園児一人ひとりについての報告書を提出している。子どもと大人という対等な関係の中で保育を行っている点にも特徴がある。子どもと接触する職員を生活指導員と呼ぶ。その日、何をやるかは、グループごとの生活指導員が子どもたちに希望を聞いて決める。子どもたちのその日の活動の様子については随時、動画で撮影し、迎えに来た保護者に披露する。
 両施設とも朝は6時30分から開いており、希望者には朝食も出す。勤務時間の不規則な保護者に対応するためである。昼食、おやつなどを含め、給食はすべて園内で調理し、弁当を取り寄せたりしない。パン、ヨーグルトなども自家製である。
 カスタニアフースの日課のひとつは、午後の昼寝である。幼児たちは、雨や雪の日以外は原則屋外の日陰で、風や野鳥のさえずりを感じながら眠りにつく。ただ、冬の気温がマイナス7度以下に下がると屋内に変更する。もちろん、保護者の意見を聞き、理解を得た上での対応である。

「森の幼稚園」に隣接した森の遊び場には、園児たちの好きな“隠れ家”も。「森の幼稚園」に隣接した森の遊び場には、園児たちの好きな“隠れ家”も。

この記事の著者

議員 NAVI

今日は何の日?

2025年 425

衆議院選挙で社会党第一党となる(昭和22年)

式辞あいさつに役立つ 出来事カレンダーはログイン後

議員NAVIお申込み

コンデス案内ページ

Q&Aでわかる 公職選挙法との付き合い方 好評発売中!

〔第3次改訂版〕地方選挙実践マニュアル 好評発売中!

自治体議員活動総覧

全国地方自治体リンク47

ページTOPへ戻る