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2017.04.25 議会改革

『地方議会に関する研究会報告書』について(その22)

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候補者・当選者の多様性

 『報告書』によれば、制限連記制の戦後第1回の衆議院総選挙において、一定数の女性議員の当選が見られたので、男女の多様性が単記制よりも確保されたという。つまり、有権者は3票を持てば、バランスをとって2票は男性に投じても1票は女性に投じるが、1票しかなければ男性に投じるというイメージである。年齢別でも職業別でも地域別でも党派別でも、有権者がバランス感覚によって分割投票をするのであれば、多様性は確保されるかもしれない。「うどん」と「そば」を選択しろといわれれば、「そば」を選択するそば好きであっても、よほどの偏食でない限り、いつも「そば」ばかりとは限らず、ときには「うどん」も注文するだろう、というようなものである。
 とはいえ、有権者が多様性を本当に欲しているのかは、分からない。そもそも、多様性を欲していないのかもしれない。現行単記制であっても、仮に男女バランスが崩れていると多くの有権者が思うのであれば、女性候補に投じるであろう。また、そう見越せば、女性候補の当選確率は高まるのであるから、女性候補者は増えるであろう。そうしたことが起きないのは、少なくとも男女比での多様性を有権者は望んでいないからかもしれない。もっとも、有権者が望んでいないからこそ、制度的に男女比を強制的に均衡化させるという政策はあり得よう。ならば、男女別選挙区制を導入するしかないだろう。制限連記制では、結局、有権者は議員の多様性を求めないかもしれない。とはいえ、多様性を生み出すという効果がないとしても、多様性を制限するという効果もないとすれば、連記制を否定する理由もないだろう。
 また、連記制の結果、『報告書』のとおり政党化・グループ化が進むとすれば、そのような政党やグループが、性別・職業別・世代別などにバランスのとれた多様な候補者をそろえるかもしれない。しかし、政党・グループが、あたかもトランプ・カードとして「色とりどり」の候補者をそろえるとは限らない。そうではなく、政治家志望の野心的な人間が集まるだけかもしれない。そもそも、政党・グループが「多彩」な候補者をそろえるという発想自体が、「色物」を前提とした「候補者ポルノ」に堕することもある。そのような「多様性」に意味があるのかどうかは、分からない。

制度設計の課題

 仮に連記制が望ましいとしても、それを具体化するには課題があることは、『報告書』も指摘している。「連記制には定数と票数によって様々なバリエーションが生じる」からである。定数50で完全連記制50は、ほとんど現実性がない。とすると、定数50であっても、票数は10とか5とか3とかの制限連記制にならざるを得ない。しかし、どれを選択するべきなのかは、よく分からない。完全連記制を目指すのであれば、定数を10とか5とかに制限するしかないが、それは結局、選挙区の設定ということになる。それが難問であることは、前回に検討したところである。そもそも選挙区の定数が10から5程度であれば、充分に有効な選択が可能であり、現行の単記制でも問題がない。
 そもそも、意中の候補者が1人しか見つからないときに連記制とすると、2票目以降の投票に対して、どのような制度にするのかが問題となる。2票目以降を棄権することは可能であるが、それでは有権者個人間の票の重さが変わってしまう。意中以外の「よりまし」な候補者を選択せよ、という制度的偏向を有権者に強制するのが妥当かどうかは、分からない。政治とは所詮は「よりまし」を目指す相対評価であるとすれば、そのような選択を迫るのも妥当かもしれない。しかし、「嫌なことは嫌」といえる自由が政治の前提だとすれば、こうした不愉快な選挙制度はあるべきでない。となると、意中の候補者に全票を投じることを可能とする累積投票を認めるしかなくなるだろう。制度をいじればいじるほど、理解が困難になる。

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