2017.04.25 議会改革
『地方議会に関する研究会報告書』について(その22)
東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授(都市行政学・自治体行政学) 金井利之
はじめに
これまで21回にわたり、総務省に設置された「地方議会に関する研究会」の最終報告書である『地方議会に関する研究会報告書』(以下『報告書』という)を検討した。前回は、「第V章(1) 地方議会における政党及び選挙制度のあり方」の「第3節 有権者の実効的な選択を可能とする選挙制度のあり方」「(2)選挙制度のあり方」「②選挙区の設定」を論じたところである。今回は、残された「③連記制」を検討しよう。
政党・グループ化への機能
『報告書』によれば、連記制のメリットは、
・現行の大選挙区において制限連記制を導入すれば、政党化の状況がある場合には政党が候補者をセットで有権者に提示し、候補者の実効的な選択及び多様性の確保の双方の要請に応えることができる
・政党化の状況がない場合は、考え方が近い候補者が連携して選挙運動を行うことにより、候補者の実効的な選択及び多様性の確保の双方の要請に応えることができる
・どのグループにも属することのできない候補者は淘汰される
・候補者のグループ化が進めば政策の違いによる選択が可能となる
とされる。
『報告書』では、基本的に政党・グループ化が進むことが、有権者に選択肢を示し、また、候補者の多様性をもたらすと想定されている。したがって、グループに属さない孤高・独立自尊の候補者を淘汰すべきという発想につながる。確かに、超大選挙区の場合には、50人以上もの候補者が乱立し、有権者は候補者を見比べることが困難となる。その点、多数の候補者を、ある程度の限定された数の政党に集約することができれば、「ジャムの法則」により、実効的な選択ができるようになるかもしれない。
例えば、定数40で候補者が50人いるときに、50人の候補者のそれぞれの違いは分かりにくい。しかし、A、B、C、D、Eの5党に集約されていれば、5党間の違いさえ考えればよい。A党に近いと考える有権者は、制限連記制で3票を持っていれば、50人の候補者のうち、A党公認のA1・A2・A3の3人の候補者に投票することができる。1票しか持っていなければ、A1・A2・A3の候補者の中で誰を選ぶべきかを決めようがない。結局、候補者個人レベルで選択しなければならないわけである。もっとも、A党からA1・A2……A30というように多数が立候補していれば、結局、制限連記制であっても、候補者個人レベルで選択するしかない。つまり、大勢に変化はないだろう。
そもそも、市町村議会レベルでは大半が保守系無所属であり、あえて政党名を名乗らせれば、ほとんどが「自由民主党」となり、それこそ選択には意味がない。保守系無所属=「自由民主党」系の中で、誰を選択するかが最も重要なのである。そこで、保守系無所属の市議会議員の会派名は、××市では、「××会」、「××クラブ」、「×政会」、「新生××」など、ほとんど名称では無意味な集団である。したがって、このようなグループが形成されたとしても、有権者の選択にはほとんど寄与しない。グループ化が進んでも、政策の違いによる選択が可能になるという保証は全くない。
とすると、制限連記制であっても、候補者個々人について判断しなければならない。つまり、『報告書』も指摘するとおり、単記制であればある1人の候補者を選べばよいが、制限連記制によって複数票を持てば、数人について情報収集しなければならなくなる。つまり、有権者の選択は、現行の単記制よりもさらに困難になる。