(3)条例を議会が決定することの意味
「条例は住民に義務付けができるのだ」とあっさり言う人がいます。「自治法の14条2項にそう書いてある」と。確かにそのとおりです。
○地方自治法
第14条 普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて第二条第二項の事務に関し、条例を制定することができる。
2 普通地方公共団体は、義務を課し、又は権利を制限するには、法令に特別の定めがある場合を除くほか、条例によらなければならない。
第15条 普通地方公共団体の長は、法令に違反しない限りにおいて、その権限に属する事務に関し、規則を制定することができる。
(下線筆者。以下同じ)
14条2項の「義務を課す」とは、住民に税などの負担を課すことを、「権利を制限する」とは、住民の行為に自治体の了解や確認を必要とすること、例えば、レストランの営業や自動車の運転に許可(免許)が必要な制度を設けることなどを指します。この「義務を課し、又は権利を制限する」ことは、15条を根拠に長が定める規則ではできないのです。
14条2項と15条1項の順番を入れ替えると、条例の役割や効果が明確になります。
○地方自治法
第14条 普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて第二条第二項の事務に関し、条例を制定することができる。〔=議会は条例を決定する〕
第15条 普通地方公共団体の長は、法令に違反しない限りにおいて、その権限に属する事務に関し、規則を制定することができる。〔=長は規則を制定する〕
↓ 両者は対等に見える。しかし……
2 普通地方公共団体は、義務を課し、又は権利を制限するには、法令に特別の定めがある場合を除くほか、条例によらなければならない。〔=住民の義務は条例(議会)が決める〕
ここで、議会・議員にとって大事な自治法14条2項の意味をかみ締めてみましょう。住民一人ひとりが約束(契約)したわけでもないのに、住民の義務(住民生活の内容)を決定できることの重みはとてつもなく大きいのです。民間企業の活動に例えれば、デパートが客に対して買う意思のない商品を強制的に購入させるようなものです。
ですから、条例を決定する権限を持っている議員は、住民から契約書に押す実印を預かっていることになるともいえるでしょう。「住民の義務(住民生活)の代理人」なのです。議員が、条例案に賛成する際の挙手(あるいは、ボタンを押す)は、住民に代わって「まちづくり契約書」に実印を押すことと同じです。議会(議員)は、「条例を決定する(住民の義務を決める)」という、自治体におけるどのような作用よりも住民にとって大きな影響力のある行為を決定する権限を持っているのです。
(4)住民の声を聞くことと条例創り
条例を創るためには、まずは住民からの要望や情報(声)を積極的に集めなければなりません。条例創りと住民の「声」とは、以下のような関係になります。
・住民が困っていること、望んでいることを把握する。
→条例にすべき事項を収集することができる。
・その事項について住民がどのくらい困っているか、どのくらい切実に望んでいるかを理解する。
→条例にした場合に課題を解決するための相当な手段(理念だけでよいか、義務付けか、罰則までが必要か)を適切に選択することができる。
物事のあるべき姿のことを「当為」といいます。その反対が「現実」です。「現実」を客観的に把握して住民の「声」を頼りにまちを「当為」に導く手段が条例です。難しい条文をつづることは条例創りの仕上げの作業です。大切なのは事実と住民の声です。条文が条例ではないのです。住民の声が条例になるのであって、条文はその表現形態にすぎません。