2017.03.27 議会改革
『地方議会に関する研究会報告書』について(その21)
選挙区割の難しさ
仮に超大選挙区が好ましくないとしても、選挙区割をどのように誰が行うのかは、大問題である。公職選挙法15条によれば、
6 市町村は、特に必要があるときは、その議会の議員の選挙につき、条例で選挙区を設けることができる。ただし、指定都市については、区の区域をもつて選挙区とする。
7 第一項から第四項まで又は前項の規定により選挙区を設ける場合においては、行政区画、衆議院(小選挙区選出)議員の選挙区、地勢、交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行わなければならない。
8 各選挙区において選挙すべき地方公共団体の議会の議員の数は、人口に比例して、条例で定めなければならない。ただし、特別の事情があるときは、おおむね人口を基準とし、地域間の均衡を考慮して定めることができる。
とされている(下線筆者)。とはいえ、『報告書』参考資料で示されているように、市町村が選挙区を設定するのは、通常は合併に伴う旧市町村の区域への配慮であり、合併後しばらくすると廃止されるのが普通である。したがって、超大選挙区になっても、全市一区というのが事実上標準となっている。
実際に、市議会において選挙区割条例を制定することは容易ではない。議会のことであるから、市長が提案するのは、非常に謙抑的になることが想定される。とすると、議員同士の合従連衡と合意形成で決定するしかないが、現状の全市一区で当選しているという既得権を持つ議員が、その既得権を失わせる可能性もある選挙区設定に納得するインセンティブは、存在しないといってよい。そもそも、区割をするための基準は、抽象的にはともかく、具体的にはほとんど存在しないといえる。そうなれば、お手盛り線引きのゲリマンダリング以外には、区割画定に際して、議員の行動原理は存在しない。しかし、現行制度で当選している議員は、ゲリマンダリングとの批判を受けてまで、選挙区設定をする理由が存在しないのである。
唯一あり得るのは、落選しそうな現職議員の保身くらいであろう。例えば、定数20の市議会では、5%の得票が得られれば当選確実であるが、この現職議員は自身の地盤のみからの集票しか見込めず、2.5%くらいだとする。そうすると、全市一区では落選するかもしれない。しかし、全市を20の選挙区に分割すれば、それぞれの選挙区の有権者は全市人口の5%になる。すると、自分の地盤で2.5%を得票するこの現職議員は、当選できるようになる。要は、特定地盤で集中的に得票している議員は、選挙区設定をした方が有利なのである。
加えて、全市域から広く薄く集票している議員を排除するためには、選挙区設定は有利に作用する。しかし、こうした選挙区設定が、議員の多様性を確保し、有権者による実効的な選択を可能とするかどうかは、大いに疑問である。
【つづく】
(1) 『報告書』そのものに忠実に表現すると、「V」とローマ数字が裸で記載されており「第Ⅴ章」という表記ではない。しかし、本稿では、単に「Ⅰ」「Ⅱ」……では分かりにくいので、章立てとみなして、「第Ⅰ章」「第Ⅱ章」……と表記する。その下位項目は「1」「2」……であるが、「第1節」「第2節」……と表記する。さらにその下位項目は、(1)①となっている。
(2) なお、男性のみの有権者からなる男性選挙区で男女ともに立候補できるようにし、女性のみの有権者からなる女性選挙区でも男女ともに立候補できるようにすれば、議員の男女比は保証されない。