2017.03.27 議会改革
『地方議会に関する研究会報告書』について(その21)
東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授(都市行政学・自治体行政学) 金井利之
はじめに
これまで20回にわたり、総務省に設置された「地方議会に関する研究会」の最終報告書である『地方議会に関する研究会報告書』(以下『報告書』という)を検討した。前回は、「第V章(1) 地方議会における政党及び選挙制度のあり方」の「第3節 有権者の実効的な選択を可能とする選挙制度のあり方」「(2)選挙制度のあり方」「①比例代表制」を論じたところである。今回は、続く「②選挙区の設定」を検討しよう。
地理的区域という前提
選挙区の設定において、選挙法制や『報告書』で自明の前提となっているのが、選挙区は地理的区域を前提に区画することである。「区」という用語からも、その前提がうかがえる。しかし、論理的には、選挙区は地理的区域で区画しなければならないということはない。
例えば、男女別選挙区を設けることが考えられる。男性選挙区には、男性の有権者のみが配分され、男性のみが立候補できるようにする。女性選挙区には、女性の有権者のみが配分され、女性のみが立候補できるようにする。そして、議員定数は男女人口比に比例するように配分すれば、議員の男女比は制度的に確実に保証される。いわゆるクオータ制よりもはるかに効果的である(2)。
こうした非地理的な選挙区割は、議員の多様性又は代表性・反映性という点を制度的に確保しようとする場合には、充分にあり得る。例えば、年代別選挙区や職業別選挙区などもあり得るだろう。また、所得・資産等階層別に選挙区を分けることもあり得る。通常、かつての等級選挙区制は、高階層選挙区には人口比例以上に多数の議員定数が割り当てられるために差別的であったが、人口比例で定員を配分すれば、差別的にはならない。
このような非地理的選挙区制は、論理的には考えられるが、現実的な仕組みとして考えられることはまずない。いかなる基準を採用するのか、合意形成をすることは難しいからである。仮に、基準について合意ができたとしても、それを具体的にどのように区割をするのかは、容易には決まらない。例えば、年齢別選挙区にすることを決定したとしても、その線引きを、20代、30代、40代というように10歳刻みにするのか、生産年齢、前期高齢者、後期高齢者のように大くくりにするのか、という問題もある。男女別選挙区は、戸籍上の男女性別のみを前提にする点で、LGBT差別といわれるだろう。
したがって、結局のところ、選挙区とは地理的区域による設定が、自明の前提とされることが多いのである。