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2017.03.27 政策研究

第10回 地域経営の軸としての総合計画

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2 総合計画策定の主体

 総合計画策定でも、また後述する総合計画根拠条例の制定でも、住民やその代表である議会は重要な役割を果たす必要がある。首長のマニフェスト=総合計画、ではない。そのマニフェストが体系的であること、首長に執行権があることを考慮して、マニフェストを総合計画策定の際の素材にするだけである。総合計画策定をめぐるいくつかの論点を確認しておこう。

(1)新しい住民参加にかかわれる議会を
 政策討議の起点としての総合計画は、あくまで住民の福祉の向上につながらなければならない。住民の意向が前提となる。その意味で、総合計画策定の際にも、またそれと連なる予算を含めた様々な計画を策定し実施を評価する際にも、住民の意向を踏まえた討議が期待される。
 総合計画が地域経営にとっての「小島」であるならば、当然充実した住民参加が必要である。むしろ、多様に実践されている住民参加は、総合計画の策定と評価にその重心を移動すべきだと考えている。
 今日、従来の充て職だけの総合計画審議会の答申を踏まえた策定とは異なる新しい試みも実践されている。全員公募で総合計画を練り上げた三鷹市の実践(1999−2001年)、無作為抽出の2,000人アンケート後に、そこで希望を募った住民による討議型の意見聴取を踏まえて総合計画を練り上げた神奈川県藤沢市の実践(2010年)、第4次基本計画の策定に当たって、住民参加の手法を多層的・多段階的に配置した三鷹市の実践(2010−2012年、アンケート、パブリック・コメント、ワークショップ、市民討論会、地区別懇談会等)など、総合計画をめぐっても新たな住民参加の実践が試みられている。
 議会は、これらの住民参加の手法が採用されているかどうかをチェックする必要がある。同時に、議会としてこれらの手法を積極的に活用して、住民の声を議会での討議に生かすことになる。

(2)地域経営の起点にかかわる議会――団体意思としての議会の議決――
 議会は、総合計画策定に当たって積極的にかかわり、行政案に対案を提出したり大幅な修正を行う。議会による「公開と討議」によって、総合計画の論点は住民に示される。総合計画は、今後の地域経営にとっての起点である。総合計画を軸にして地域経営が行われるがゆえに、当然、行政計画ではなく、団体意思の表明としての計画でなければならない(自治法96②による議決事件の追加)。つまり、住民の様々な意向を聞きながら、また住民と討議しながらも、最終的には住民代表としての議会の議決が必要である。
 今日、総合計画を議決対象とする自治体が増えてきたのは、当然である。議決対象は、基本構想84.0%、基本計画35.6%、実施計画4.7%、地区別計画17.3%、となっている(日本生産性本部 2016)。従来、ほとんどの自治体では総合計画案が提出されてから審議し、そのほとんどは修正のないままに可決される。それに対して、議決事件に責任を持つ議会が総合計画策定に当たって積極的にかかわり、修正案や提言を提出する。議決のあり方を180度転換させるものである。
 京都府京丹後市では、総合計画策定に向かい合い、議会として修正案を提示している(江藤・自治体学会議員研究ネットワーク 2015)。また、北海道栗山町議会では、議決事件である総合計画の議会案を作成してそれを住民に説明し、住民の質問に議員が答える機会を議場にも設けた(2007年10月16日)。長崎県小値賀町議会(マニフェスト大賞2012年優秀成果賞)、岐阜県高山市議会(マニフェスト大賞2014年優秀成果賞)、多治見市議会(マニフェスト大賞2016年最優秀成果賞(表1参照))、京都府精華町議会(2016年度全国町村議会議長会特別表彰)、福島県会津若松市議会などは、首長に対して総合計画に関する提言を議会として提出し、総合計画をめぐる議論を活性化させている。

 総合計画が地域経営の軸である認識は共有されてきた。そこに「住民自治の根幹」としての議会はどうかかわるか。多治見市議会の試みは、1つ重要な試みであり、4年前からのバージョンアップだといえる。
 特別委員会を設置し、議案として提出される以前から議論する体制を整備した。議員が主体的に総合計画にかかわるためにも「議員一人一提案」を行い積極的に議会からの提案を重視した。基本計画は、1事業ごと詳細に審査し、議会として主体的に修正案を提出している。それを踏まえて、総合計画案が12月議会に提出され可決されている。7か月にわたる議会と首長等とのキャッチボールの末に総合計画は策定され可決された。総合計画(冊子)には、市民参加、職員参加とともに、議員参加が書き込まれたことも頷ける。まさに、議会と首長等との協働、つまり総合計画をめぐる政策競争が生まれた。
 市政基本条例に、総合計画が明確に書き込まれていることも、議会が積極的に総合計画にかかわった理由である。また、4年前にも総合計画に関する特別委員会を設置して議員間討議を重ねた伝統を踏まえたものである。
 なお、北海道栗山町議会は、総合計画の策定にあたって、行政が議論している方向に危機感を持ち(財政危機の認識があまく相変わらず発展計画としたことなど)、独自に総合計画に関する議会案を作成した。それを総合計画審議会委員に対して、議場で説明している。行政側が市民参加を行うとしても、議会として議会案を説明し意見をもらう姿勢も必要だ。議会と首長等との二者間による政策競争が行われた。一歩進めて、住民も加わったフォーラムとしての場の形成が望まれる。 (講評 江藤俊昭)

出典:第11回マニフェスト大賞審査委員講評

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