2017.03.27 政策研究
第10回 地域経営の軸としての総合計画
1 総合計画を地域経営の軸に
(1)大海における「小島」としての総合計画
総合計画が地域経営の根幹として作動し始めたまさにこの時期に、総合計画、正確には基本構想の策定の義務付けが廃止された(自治法2④廃止)。
基本構想の法定化は、高度経済成長による乱開発を防ぐために、「その地域における総合的かつ計画的な行政運営を図る」目的で、住民代表機関である「議会の議決を経て」策定されるものである(1969年に自治法に挿入(自治法2④))。前年には、都市計画法が制定されている。
総合計画は、基本構想・基本計画・実施計画の三層構造が一般的である。総合計画の構成は、自治法上規定されているわけではない。財団法人国土計画協会『市町村計画策定方法研究報告』(1966年、自治省による委託)により提起され、その後三層構造が一般的になっている(76.4%、玉村・日本生産性本部 2011)。このことで、体系性が形成されたものの、基本構想が抽象的になり、それのみが議会の議決の対象となった。とはいえ、地域経営の軸となる総合計画が策定されるようになった。
基本構想の法定化の解除は、総合計画を策定しないことを肯定するものではない。自立型社会にとっては、地域経営指針としての実効性ある総合計画の策定が不可欠である(1)。今後も策定を予定している自治体が圧倒的に多いが(91.1%)、残念ながら「策定しない」(0.7%)、「策定するかどうかわからない」(7.8%)という自治体もある(日本生産性本部 2016)。
地域経営の方向性を年度ごとではなく、もっと長いスパンで連続的に可視化する、つまり地方政府による住民へのマニフェストであること、だからこそこれを起点に修正を含めた議論が展開されることが必要である。総合計画という約束は「予見不可能性の大海に対して、予測可能性の『小島』を人為的に創出しようという試みである」(佐々木 2009:121-122)。総合計画はその重要な1つである。総合計画は、地域社会の不確実性を目前にして、住民に対する地方政府からのマニフェストとしての意味を有する。実践においても、さらに地域経営の討議においても、総合計画が基軸に展開される。予見可能性を高めることで、有限な時間の節約になり、状況に機敏に対応できるメリットもあるだろう。
総合計画は、地域経営を行う上で「戦後の日本が開発した独自手法」である(松下 2005:146)(2)。地域社会が成熟化し財政危機が継続している時代に、年度ごとの短期ではなく、それよりも長期の視点からメリハリをつける地域経営を行う上でも、今後も重要となる。
予見不可能性の大海を乗り切るための予測可能性の「小島」として総合計画をつくり出すとすれば、その根拠条例、総合計画策定の主体、総合計画を中心とした地域経営手法の開発といった論点に答えておかなければならない。そして、どれも議会がその論点において重要な役割を発揮しなければならないものである。
総合計画は今日、多治見市方式をはじめ、実効性ある計画が策定されるようになってきた。予算と連動(記載されていないものは予算化しない)、分野別計画と連動(内容とともに計画期間の連動)、首長のマニフェストとの連動(計画期間を首長任期に合わせた4年単位とする。なお、マニフェスト=総合計画ではない(策定に住民や議会がかかわる))、といった要素を含んでいる。
実効性ある総合計画は、多治見市方式だけではない。総合計画の対象・範囲、役割の相違によって3つの方式が想定できる(玉村・日本生産性本部 2011(用語は筆者により適宜変更))。
① 行政経営を機能させる方式(例:岐阜県多治見市)
行政組織の活動を通じて、生産性(成果)の向上を目指す実効性のある仕組みづくりとして行政経営の指標とするものである。行政経営のトータルシステムとして、総合計画を軸に各種の行政システムを位置付ける。
② 協働・共創による経営を機能させる方式(例:愛知県東海市、長野県小諸市)
行政組織だけではなく、地域全体で生産性の向上を目指すものである。多様な主体による協働・共創の実現である。総合計画は、成果目標の情報体系として、効果的な役割分担や協働・共創の仕組みとして位置付けられる。
③ 行政経営と地域経営の相乗効果を促す方式(例:岩手県滝沢市、東京都三鷹市)
行政経営と協働・共創による経営、これら2つの統合による相乗効果を目指すものである。行政組織の生産性の向上は協働・共創による生産性の向上を促す。また、行政組織が小さくなれば、行政以外の多様な主体により公共サービスが供給されることも重視する。
(2)総合計画を軸とした地域経営
実質的な総合計画の策定によって、その評価と新たな政策形成も容易となる。PDCAサイクルが一般的になっているが、そのサイクルの根幹が総合計画となれば、これを中心に地域経営のチェックが可能となり、したがって新たな政策提案も容易となる。
総合計画に基づき地域経営が行われることから、議会ではこれを中心にした討議が行われ、議会は地域経営の責任者として登場することになる。従来は場当たり的な、あるいは思いつきの全体を視野に入れない質疑・質問(以下「質問」という)が多かった。それが、総合計画が実質的になればなるほど、それを基軸とした議会運営が必要となる。
すでに参考にすべき実践はあった。首長が提出したローカル・マニフェストを中心とした議会運営である(マニフェスト型質問)。その際、議会はそのローカル・マニフェストに賛成でも反対でも、これを基軸とした質問の場とならなければならない。賛成議員は、より効率的で住民の満足度を向上させる手法を提起する必要がある。他方で、反対議員は、このローカル・マニフェストに基づいた政策が住民の福祉向上につながらないことを主張し、よりよい政策を提案する義務がある。さらに、議員の質問を実質化するには、個々の議員や会派での討議だけではなく、委員会による、あるいは本会議による議員間討議を踏まえることが必要である。個別分断化された議員個人や会派の質問ではなく、議会としての質問であることから、より力を発揮するからである。
同様に、総合計画ともなれば、単なる首長の意思ではなく団体の意思であることにより、それを基軸に質問も提案もできる。ここでも、議員同士の討議を踏まえた質問は力を発揮する。総体的・相対的な思考を議員に強いる。単なる個別利益だけを主張する議員は相手にされなくなる。予算や決算を含めて様々な政策は、総合計画を起点としていることを改めて強調しておきたい。