2017.03.10 政策研究
【フォーカス!】ふるさと納税
国と地方の今。明日の議会に直結する、注目の政策をピックアップして解説します。
曲がり角のふるさと納税 見えない改善策
ふるさと納税の返礼品競争が過熱していることを受け、高市早苗総務相は2月16日の衆院総務委員会で「法律で禁止はできないが、課題を網羅的に洗い出し、改善の検討を進めたい」と述べ、見直しの意向を表明した。これを受けて総務省も自治体への意見照会を開始している。どのような改善策があるのか。
ふるさと納税はもともと、菅義偉官房長官が総務相時代の2007年に導入の検討を指示し、2008年度からスタートした。「地方の自治体が子ども教育に数千万円かけているのに、大人になって都会に出てしまうのは都市の自治体に有利すぎる」「生まれ故郷への恩返しの仕組みを」といった素朴な声を受けてのことだった。
総務省の全国まとめによると、2008年度に地方自治体が受け入れたふるさと納税の総額は81億3957万円(5万3671件)で、その後は100億前後で推移していた。急激に伸びたのは2014年度以降で、特に2015年度は1652億9102万円(147万6697件)となっている。
その要因として自治体が挙げているが、①返礼品の充実、②ふるさと納税の普及、定着、③2015年度における制度拡充(ふるさと納税枠の倍増、ふるさと納税ワンストップ特例制度の創設)、④収納環境整備(クレジット納付、電子申請の受付など)-の順になっている。
また、ふるさと納税を実施する自治体のうち9割が何らかの返礼品を送付しており、寄付額の5割近くが返礼品の調達や送付、事務経費などに充てられているというデータもある。
寄付を急速に増やした2015年度の制度拡充は、安倍晋三政権下でのことだ。安倍首相は2015年2月の施政方針演説で「それぞれの地方が、特色を生かしながら、全国にファンを増やし、財源を確保する、ふるさと納税を拡大してまいります。手続きも簡素化し、より多くの皆さんに、地方の応援団になってほしいと思います」と訴えている。
狙いは地方創生だ。総務省のホームページにある「ふるさと納税で『地方創生』」というキャッチフレーズが象徴するように、地方創生策の柱に位置付けた。税制改正では、まず減税対象となる寄付額の上限を2倍に拡大した。さらに、ふるさと納税ワンストップ特例制度を導入し、5自治体以内であれば確定申告をしなくても寄付金控除が受けられることになった。企業版のふるさと納税制度も創設している。
この結果、2016年度の寄付額は2015年度よりも6割増えて、2600億円程度になる見通しだ。菅官房長官が講演会で自ら明らかにするほど、急増がうれしかったのであろう。
だが、ふるさと納税とはそもそも、東京都内に住む人が地方の自治体に寄付すれば、その自治体から相応の返礼を受け取る上に、寄付した額に応じて都内での住民税などが減額される制度だ。得する自治体があれば、損する自治体もある。つまりは、自治体の間でお金を奪い合う仕組みだと言える。
となると、寄付を得たい自治体は必死になる。納税のお礼に高額のパソコンや家電製品、商品券などを用意し、インターネット上には民間の仲介サイトも登場している。となると、もはや地方創生策ではなく、自治体版の通信販売といった分析も可能だ。高市総務相の見直し表明もあって、仲介サイトの運営会社が高額で転売されやすい商品などを掲載しない自主規制を強める方針を示しているのも、当然のことだと言える。
一方、寄付額が2600億円となると、税収を失う側の自治体も大変だ。東京都世田谷区の保坂展人区長は「学校一つ造るのを諦める金額だ」と危機感をあらわにする。大阪府の松井一郎知事も、知事のサイン入り感謝状しか出さない状況を改め「なんでもありなら本気で参入し、地方に負けないものを用意する」と宣言している。
そもそも地方創生に真に必要なことは、自治体が自由に使える予算を増やすことである。この自治体間のお金のやり取りは、ゼロサムのゲームであり、寄付が返礼や仲介サイトへの支払いなどに充てられるという外部流出もある。「地元の特産品を送って興味を持ってもらい、観光につなげたい」といった切なる願いは分かるが、やはりふるさと納税を地方創生策に位置付けるのには無理があるようだ。自治体間のお金のやりとりで地方創生が可能になるとするのは「目くらまし」としか評価できまい。