2017.02.27 議会改革
第9回 地域経営のルールとしての自治・議会基本条例(下)
山梨学院大学大学院社会科学研究科長・法学部教授 江藤俊昭
今回の論点:議会基本条例制定から10年、次のステップへ
地方分権改革により地域経営の自由度は高まった。そこで不可欠なのは、そのルールと軸である。地域経営のルールとしては、自治・議会基本条例などがあり、地域経営の軸としては、総合計画などがある。後者については、次回以降に検討することとし、今回は前者の自治・議会基本条例を中心に地域経営のルールを考えていこう。
自治基本条例は、北海道ニセコ町「まちづくり基本条例」(2000年12月制定)を先駆とする条例群を指している。まさに、地方分権の申し子といえる。自治基本条例は「自治体の憲法」としばしば呼ばれる。しかしながら、本連載で強調するように、自治体の組織・権限に関する事項はあまりにも少ない。憲法・法令(地方自治法等)で規定されている事項が多く、条例制定に意味がないというだけではなく、すでに条例で規定されている事項が多いためである(議会の定例会回数条例や委員会条例等)。
また、ニセコ町まちづくり基本条例には、当初、議会に関する条文が1条もなかった。「住民自治の根幹」としての議会についての規定がない。管見の限りでは、東京都杉並区自治基本条例において初めて議会事項が規定された。その後制定された各自治体の自治基本条例の中には議会条文が挿入されているとはいえ、申し訳程度の3条分である(例外として、長野県飯田市自治基本条例、ニセコ町まちづくり基本条例(改正)、岐阜県多治見市市政基本条例などがある)。
これらを考慮すれば、自治基本条例制定の動向は歴史的に大きな意義があるとはいえ、「自治体の憲法」とするには、さらなる一歩を踏み出さなければならない。
自治基本条例よりも制定は遅れたが、議会基本条例が制定され、その試みは全国に広がっている。議会軽視の自治基本条例を補完する意義はある。もちろん、本連載で強調するように、〈自治基本条例=行政に関する条例〉、〈議会基本条例=議会に関する条例〉ではない。議会基本条例は、議会が住民から見えない中で、議会が住民に示したマニフェストとして、また、従来とは全く異なる議会運営を宣言したものとして、画期的な意義がある。
① 自治・議会基本条例の意義を確認する。
② 議会基本条例の進展を振り返る。
③ 自治・議会基本条例の課題(体系化や組織権限の欠如)を考える。
④ 議会基本条例を形骸化させない手法を模索する。
3 もう一歩:自治・議会基本条例の限界
初の議会基本条例制定から10年が経過し、それをバージョンアップする時期に来ている。議会不信に抗して、その条例制定を起点に議会の「見える化」を進めることは今後も必要である。その歴史的な限界、あるいは到達点を認識し、さらなる一歩を踏み出す必要がある。ここで指摘する限界は、何も議会基本条例にかかわることだけではなく、制定されている自治基本条例にも該当する論点である。
① 自治・議会基本条例の統合を:「議会基本条例=議会に関する条例」ではない
議会基本条例は議会運営のルールだけを定めているのではない。議会基本条例に規定されている内容を考慮すれば、ほぼ自治のルールである。議会が「住民自治の根幹」だという意味だけではない。住民と議会との関係、議会運営の基本原則、首長等との関係、それに自治体間連携や危機管理などが規定されている。自治のルールという観点からすれば、欠如しているのは住民と首長等、首長と補助機関・行政委員会・委員、これらの関係についてだけである。
議会が住民から不信感を持たれ執行部の追認機関化した状態から脱却し、住民、議会、首長等による地域協働を創り出す可能性は広がっている。その観点からすれば、〈自治基本条例=行政に関する条例〉、〈議会基本条例=議会に関する条例〉ではない。住民に対するマニフェストという議会基本条例の歴史的意義は強調しすぎることはない。しかし、そろそろ議会基本条例の重要事項を自治基本条例に昇華させる時期に来ている。自治基本条例の下に議会基本条例、行政基本条例、さらには総合計画の策定と運用に関する条例等が存在するという条例体系を創り出すことである。