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2017.02.27 議会改革

『地方議会に関する研究会報告書』について(その20)

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比例代表制は、候補者の多様性につながるか

 政党が比例名簿を調整すれば、候補者の性別・年齢・専門性などの多様性を確保しやすいと『報告書』は述べる。例えば、拘束式比例名簿を男女交互に並べれば、当該政党の当選者の男女比はほぼ1対1に維持することはできよう。
 しかし、それ以外の場合には、様々な要素で「色取り取り」に名簿を構成するとしても、住民構成を反映するモノになるとは限らない。むしろ、名簿の中に、「色物」として入れられるだけになるかもしれない。例えば、「障害者の感動ポルノ」などとも批判されることもあるように、障害者又は障害者の親であることなどを「売り」に候補者にするならば、それは政党の多様性・寛容性・反映性を示すものではなく、当該政党の「いかがわしさ」や深層での障害差別意識を映し出すだけになる危険もある。政党の品性が試されるわけであるが、品性のある政党が現に存在していれば、すでに候補者の多様性は実現していよう。
 そもそも、比例代表制に限らず、政党が候補者調整をする場合には、こうした「色取り取り」を目指して「色物」を並べる可能性は常に存在する。小選挙区制であろうと、中選挙区制であろうと、政党が公認候補をそろえる場合に、いろいろな候補を並べて、多様性と反映性をアピールすることは可能である。可能であるにもかかわらず、現在でも特定の偏った候補者が多いとすれば、比例代表制になっても、大勢に影響はないだろう。その意味で、候補者調整をする政党のあり方は、現状では多様性への充分条件にはならない。
 ただし、必要条件ではある。そして、政党が多様な候補者を並べたときに、拘束名簿式比例代表制ならば、そのまま当選者の構成に反映しうる。しかし、逆にいえば、政党の「いかがわしさ」を有権者は拒否する選択肢を、拘束名簿式比例代表制は持たないということである。これが中選挙区制や小選挙区制であれば、仮に「障害者の代表」として候補が擁立されたとしても、仮定として例えば、「既婚者でありながら、何人もの女性に次々と手を出す人物」であれば、その候補者を有権者が気に入らなければ、落選させることはできる。それゆえに、そのような「ポルノ」男優顔負けの人物は、立候補すらできないであろう。しかし、比例代表制で名簿上位登載になってしまえば、有権者は落選させるという選択肢を持たない。
 このように見てくると、『報告書』の議論はほとんど説得力がない。

比例代表制の導入への課題

 上記のとおり、『報告書』の比例代表制に係る議論は説得的ではないが、『報告書』自体は比例代表制に一定の価値を置いているようである。とはいえ、比例代表制の導入は容易ではないことも指摘されている。
 第1に、無所属の立候補が制約される、とされる。もっとも、「無所属」又は「候補者自身の氏名」を政党名にして、立候補すればよいだけである。例えば、山本太郎という無所属の個人は、「山本太郎」という政党名で立候補すればよい。
 第2に、地域ごと又は自治体ごとに政党が結成されることが想定されるので、地方選挙制度において「政党」の設定方法が課題である、とされる。もっとも、これは国政選挙における比例代表名簿と同じであり、結局のところ、「政党」という定義ではなく、当該選挙のための「候補者名簿」ということになろう。そして、国政でも問題になっているが、当選後の「政党」の離合集散や解体、議員の「政党」間の移動という問題は残る。これらは、自治体に比例代表を導入することに特有の問題ではないだろう。
 第3に、現行制度からの大幅な変更なので社会的合意が困難であるという課題も指摘されている。もっとも、国政では比例代表制はすでに導入されている。
 第4に、団体規模に応じて政党化の進行には大きな開きがあり、地方選挙に一律に政党中心の比例代表制を導入することが難しいという見解も紹介されている。あるいは、政党化が進んでいない団体に対して、名簿式比例代表制を導入することは困難である、ともされている。前者の見解からすれば、政党化が一般的に進んでいる都道府県・政令指定都市・特別区という類型に比例代表制を導入することで、充分に課題は乗り越えられるかもしれない。後者の場合には、類型別の一律制度は難しく、団体ごとの政党化に対処するという方策となる。となれば、団体ごとに、比例代表制を選択できるようにすればすむだけともいえる。
 『報告書』では明示的に触れられていないが、比例代表制の導入で問題になるのは、選挙区割であると思われる。特に、都道府県議会は地域代表的な側面が強いので、全域一区という選挙区は想定しにくい。しかし、比例代表制は、選挙区の定数がある程度の多さの数でなければ、機能しない。端的にいって、定数1では比例代表制は意味がないし、定数2~3程度でも、ほとんど意味がない。やはり、最低でも定数6程度が期待されるところである(2)。すると、現在の都道府県議会選挙区の大幅な合区が必要となろう。例えば、前回例示した熊本県でいえば、単独選挙区になれるのは熊本市くらいであり、あとは、県内ブロックごとにまとめる必要が生じる。いうまでもなく、現職議員がいる中での区割再編は、大揉(も)めに揉めるものである。

【つづく】


(1) 『報告書』そのものに忠実に表現すると、「V」とローマ数字が裸で記載されており「第Ⅴ章」という表記ではない。しかし、本稿では、単に「Ⅰ」「Ⅱ」……では分かりにくいので、章立てとみなして、「第Ⅰ章」「第Ⅱ章」……と表記する。その下位項目は「1」「2」……であるが、「第1節」「第2節」……と表記する。さらにその下位項目は、(1)①となっている。
(2) 衆議院の比例代表選挙は、四国ブロックが定数6、北海道ブロックが定数8である。沖縄県は明らかに九州とは地域性が異なるが、九州ブロック定数21の中に含まれている。仮に沖縄を単独選挙区とすると、定数2程度にしかならないだろう。

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