2017.02.27 議会改革
『地方議会に関する研究会報告書』について(その20)
東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授(都市行政学・自治体行政学) 金井利之
はじめに
これまで19回にわたり、総務省に設置された「地方議会に関する研究会」の最終報告書である『地方議会に関する研究会報告書』(以下『報告書』という)を検討してきた。前回は、「第V章(1) 地方議会における政党及び選挙制度のあり方」の「第3節 有権者の実効的な選択を可能とする選挙制度のあり方」「(1)実効的な候補者の選択」を論じた。今回は、それを踏まえて、「(2)選挙制度のあり方」「① 比例代表制」という具体的な制度設計論について検討してみたい。
比例代表制は、有権者の実効的な選択につながるか
「政党単位での選択が可能となる」として、『報告書』は比例代表制を検討する。『報告書』によれば、有権者の実効的な選択の観点からは、
・政党が候補者の発掘・選定を行うことにより、一定の資質を確保することが期待される
・議員のなり手の確保が図られる
・選択肢の数が絞られる
・政党間の政策の違いによる選択が可能となる
とされる。
しかし、政党が多数乱立すれば、選択肢の数が限られるとは、必ずしもいえない。比例代表制は、もともと小党乱立になりやすいといわれているからである。同様に、政党間で政策の違いが明確にされるとは、必ずしもいえない。多数の政党が乱立すれば、相互の違いは分かりにくくなってくる。政党が候補者を発掘・選定するとしても、資質が確保されるなどという保証は全くない。調子のよさそうな政党に、有象無象の人間が群がってきて、いい加減な候補者が、名簿に並ぶだけという可能性もある。政党は、「チルドレン」という頭数をそろえるだけであり、むしろ、資質のない候補者を当選させるのが比例代表制かもしれない。この点は、候補者を適当にそろえる小選挙区制でも同じことが作用する。当選する候補者が吟味されないのが、比例代表制と小選挙区制の共通点である。中選挙区制でも「チルドレン」は「風」で当選しうるが、それ以外の候補者も当選して生き残る可能性は高い。
また、比例代表制になったとしても、総議員数は変わらないのであれば、当選確率は同じである。議員のなり手が確保される保証は全くない。当選可能性のありそうな大政党であれば、リスクを冒さずに「大船に乗った」気で候補者になり、そのまま当選することもあり得よう。その意味で、現行制度がリスク愛好者の博打(ばくち)的な政治家に偏重しているとすれば、リスク回避者を政治家にすることも可能になるので、なり手の可能性を増やすとともに、バランスを回復させる可能性はある。しかし、これは、あくまで大量当選が見込める大政党で当選可能ラインより上に名簿登載してもらえるときだけである。そもそも、小政党の場合には、リスク愛好者しか候補者にならない。さらに、大政党であっても、上位登載をしてもらえるかどうかは、党執行部のさじ加減次第であり、リスクは小さくない。名簿下位に登載されたときに、「敵前逃亡」できるほど厚顔無恥であるとは限らない。さらに、非拘束式名簿であれば、リスクは全く減らない。
このように見てくると、『報告書』の議論はほとんど説得力がない。あえて『報告書』で説得的なことといえば、死票が少なくなることによって、有権者の投票参加意欲が促進される、という指摘くらいかもしれない。もっとも、自分が投票しようとしまいと、当該政党の得票総数は1票しか変わらないのであって、投票参加意欲が増すとは限らないだろう。