2017.02.27 政策研究
【フォーカス!】人口移動の報告
国と地方の今。明日の議会に直結する、注目の政策をピックアップして解説します。
地方創生で「均衡」は可能か 自治体の創意生かし総力戦を 2016年の人口移動報告
総務省は1月31日、住民基本台帳に基づく2016年の人口移動の報告を発表した。注目される東京圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)への転入者は、転出者を11万7868人も上回る大幅な「転入超過」となった。この数は、2015年よりも1489人少なく、5年ぶりに減少に転じたことになる。問題はこれをどう評価するかだ。
2014年末に安倍政権が策定した「まち・ひと・しごと総合戦略」では、東京圏の転入者と転出者の数を、東京五輪が開かれる「2020年には均衡させる」とした目標を掲げた。具体策として、地方で毎年10万人分の雇用を生み出して流出を防ぐとともに、東京からの移住・定着に結び付ける新しい「ひと」の流れづくりに取り組むとしている。
そうであれば、地方創生の政策を2年は実施しているにも関わらず、21年連続で東京一極集中が続く現状については、「地方創生の成果が出ている」とはまだまだ言えないのは明らかだ。
三大都市圏の残りはいずれも4年連続の転出超過で、その数は名古屋圏(愛知県、岐阜県、三重県)が2363人、大阪圏(大阪府、兵庫県、京都府、奈良県)も9335人。これまで東京一極集中は1960年ごろをピークにした1回目の大移動があり、次がバブル経済の始まった1986年ごろをピークにした2回目の山があり、2000年以降も集中が続いている。
都道府県別に見ると、転入超過は7都府県あって、東京圏以外では愛知、大阪、福岡の3府県となっている。
では、地方創生の成果は上がっているのか。まず鳴り物入りで始めた東京23区からの本社機能の移転である。道県が計画を認定することで移転促進の優遇税制の適用を受ける可能性のある企業は、2016年末でわずか12社しかない。もともと地方にあってそこで本社や研究所の機能などを拡充することで減税の対象となる可能性のある会社も、117社にとどまっている。これらの措置で生まれた雇用はまだ限定的でしかない。
地方からは早くも、「もっと国が追い出してくれると思っていた」「税制優遇の期間を5年でなく延長すべきだ」といった声も漏れている。
次に、国が範を示すとしていた中央省庁の地方移転でも、全面的な移転は文化庁だけにとどまった。他の省庁や独立行政法人も含めた国関係機関の移転による経済的な効果も不明確だ。これら施策の効果は不十分で、てこ入れ策が必要と言えるだろう。そのためには「2020年均衡」に向けて、何らかの具体的な道筋を示すべきである。
政府は、全国知事会の訴えを取り入れ、東京23区での大学や学部の新増設の抑制などを検討するため2月6日に「地方大学の振興、若者雇用等に関する有識者会議」に設置、5月中旬に中間報告をまとめる予定だ。だが早くも日本私立大学団体連合会は反対を表明。18歳人口が減少局面に入り大学の経営が厳しくなることを考えれば、効果的な施策につなげるのはかなり困難となるだろう。
地方から東京圏などに若者が出るタイミングは大きく分けて二つある。一つは高校を卒業し入学や就職する時だ。そして、もう一つが地元の大学を出て仕事に就く時である。つまり、もし東京の大学を地方に移転させたとしても、仕事がなければ結局は、大都会に出るしかない。
安倍政権の進める総合戦略だけでは、五輪に向け投資が集まる東京の独り勝ちは明らかなことは分かっているはずだ。国主導の政策に徒に期待を集めるのではなく、もっと地方自治体の創意工夫を生かし、総力戦で臨まなければならない。