2017.02.10 政策研究
【フォーカス!】新幹線ルート
国と地方の今。明日の議会に直結する、注目の政策をピックアップして解説します。
政治は説明責任果たせ 「我田引鉄」を越えて 北陸新幹線のルート決定
北陸新幹線のうち未着工だった、福井県・敦賀と新大阪を結ぶルートについて、与党は2016年12月、福井県・小浜と京都を経由する「小浜京都ルート」を選んだ。3つのルートから絞り込む様子は、「我田引鉄」とも評される状況だった。
小浜京都ルートの建設費2兆700億円に対し、敦賀から南下し滋賀県の米原で東海道新幹線に乗り換える「米原ルート」は5,900億円、その3割弱で済むと試算されている。だが、与党は「運賃が最も安く、時間短縮効果も大きい」を理由に小浜京都ルートを選択した。この事業費の差を埋めるだけの利便性があることや、米原ルートが本当に難しいのかについて、その説明責任を果たさなければならない。
候補は3ルート
前提となる北陸新幹線の必要性について異論はないだろう。南海トラフ巨大地震などで東海道新幹線がストップした際、北陸新幹線は東京―大阪を結ぶ重要な代替路線となる。さらに国土の均衡ある発展や、原発による電力供給への福井県の貢献を考えれば、整備は当然である。
候補ルートは3つあった。米原ルートは、福井県・敦賀―滋賀県米原を新設し、米原からは東海道新幹線に乗り換えることから工期は10年で済み、概算建設費は5,900億円、費用対効果分析(B/C)2.2となる。滋賀県が強く推している。関西広域連合はもともと、B/Cからこのルートで一致していたが、東海道新幹線への直接の乗り入れは難しく、乗り換えになるということから諦めた経緯がある。
小浜京都ルートは、敦賀―小浜市付近―京都―新大阪までを新設し工期は15年、建設費は2兆700億円、B/Cは1.1で、北陸新幹線の事業主体であるJR西日本が推していた。
最後に小浜舞鶴京都ルートで、敦賀―小浜―舞鶴市付近から南下して京都、新大阪に至るルートで、工期は15年、建設費は2兆5000億円で、B/Cは0.7と着工の目安となる1.0を割り込む。これは京都府が推していた。
舞鶴、米原が脱落
3ルートを推す主体がそれぞれ異なっていることが、今後の事態の複雑化を予言しているようだ。まず舞鶴ルートは、事業費が大きく、敦賀―新大阪の所要時間が1時間で、小浜ルートの43分よりも利便性が劣ることから脱落した。
一方、京都府はこの決定に対し、態度を硬化させている。その理由は、京都府内に新しい駅の建設がないからだ。具体的には、小浜ルートでは、小浜―京都間は山中を通るだけとなり、京都市内は大深度地下で、現・京都駅の地下に駅を造ることになる。
京都府にとっては、整備新幹線の建設費は3分の2を国、3分の1を地元自治体が負担する原則に従えば、負担は数千億円と試算される。にもかかわらず新駅がなく、メリットが乏しい。このため京都―新大阪間については、南回りルートも検討されており、この場合には、府南部に1カ所、駅を新設する可能性は残る。
もし舞鶴ルートに決まっていれば、少なくとも舞鶴に新幹線の駅ができ「京都府内の均衡ある発展にもつながる」として、応分の負担について府民を説得できたかもしれない。京都府は最低限、南回りルートの採用と負担の軽減を求めることは必至だ。
もう一つ、脱落したのが米原ルートだ。東海道新幹線に「ダイヤが過密で困難。北陸新幹線が乗り入れできない」(JR東海)、「運行システムや脱線防止設備が違い技術上の制約がある」(JR西日本)という、JR側の主張を優先した結果である。
これに対して、滋賀県が強く反発する。米原ルート以外になると「新幹線は通らず、湖西線が並行在来線になる」という結果となり、デメリットだけを被ることを意味する。受け入れがたい決定ということになる。
技術が最大のネック?
では、本当に技術的な制約があるのか。まずダイヤについては、リニア新幹線の整備とリンクする。現在のペースで北海道や北陸両新幹線の着工済み区間の整備が進んだとしても、敦賀―新大阪を新規に着工できるのは2031年春ごろとなる。JR東海が整備するリニア中央新幹線の東京―名古屋の開業は、それより前の2027年となり、名古屋―大阪は2037年を目指している。
リニア全線開業後であれば、東海道新幹線のダイヤにも余裕が生まれるだけに、乗り入れを可能と考えるのが順当だ。
となると、最大の制約はシステムの問題である。実は、JR西日本には当事者能力はない。というのも、北陸新幹線のシステムはJR東日本のシステムを使っているからだ。東京駅で東海道新幹線と東北新幹線がつながっていないことが象徴するように、東海と東日本のシステムは技術的に全く違っているという。
運行管理システムは、東海道新幹線が中央集中型の「COMTRAC」、北陸新幹線が広域分散型の「COSMOS」で、根本的にその設計思想が異なる。このため乗り入れには、いずれかのシステムに統一する必要がある。脱線・逸脱防止装置も違っており、場合によっては転倒の危険性があるとしている。
この点について国土交通省は「鉄道技術に詳しい職員も乗り入れは難しいと判断している」と述べている。ただ、本当に技術的に不可能かどうか、JR側に検討は求めていない。民間会社であるJRにそこまでは頼めないという。技術的な検証はしていないということだ。
検証もしないまま、2兆円近くの事業費の差を説明したとしても、説得力に欠けるのではないか。米原ルートを推す声もJR関係者にもいる。技術的に本当に不可能なのか、あるいはどれぐらいの投資で可能になるのか数値を示すべきだろう。
もう一度比較を
財政難から公共事業費の削減が強く求められている。その中で2兆円規模の小浜京都ルートを今選んだのは、「地方創生回廊をつくり上げる」とする安倍政権下で計画を早急に決める、そして、できれば将来の収入を担保に借金をしてでも前倒しでも造りたいという政治的な思惑が働いたからだ。
国交省は2017年度から、小浜京都ルートの詳しい経路や駅の位置を決めるための詳細調査を始める。ルート上には国定公園があり、京都市内は用地買収が不要な地下40m以上の大深度での工事となる。京都―新大阪も同様に大深度地下かトンネルでの工事になる。
環境影響評価(アセスメント)手続きは5~6年はかかる見通しだ。その間にさまざまな課題が出てくるだろう。建設費の上乗せもあり得る。それらが見えてきた時点で、もう一度、米原ルートと比較すべきではないか。
その結果、小浜ルートに決まれば、滋賀県も納得するだろう。事業費などを負担する関係自治体の同意を得る丁寧な論議が待たれている。