2017.02.10 議会運営
第30回 起訴されたら議員報酬を支給停止する条例は制定可能か
議会事務局実務研究会 吉田利宏
■お悩み(「本当はお役に立ちたいです」さん 50代議会事務局次長)
少し前に、刑事事件で起訴された議員がいました。この議員は無罪を裁判で証明すると言っていましたが、結局は有罪(懲役刑の実刑)となり、議員を失職しました。失職するまで、議員報酬をもらい続けていたので、住民からはかなり批判されました。議会は住民の信頼を回復しようと、どんな罪であっても議員が刑事事件で起訴された際には議員報酬の支給を一時的に差し止め、有罪となった場合には停止された報酬を支給しないこととする条例を成立させようとしています。我が市では、長期にわたり議会に出席しない(できない)者についての議員報酬減額の規定さえありません。住民の信頼を回復するという理由だけで、このような条例を制定することは許されるものでしょうか。アドバイスをお願いします。
回答案
A 法的にはできない条例ではない。しかし、どのような刑事事件を対象とするか議会で十分に議論してもらうことが必要である。
B 議員には議員報酬を受ける権利があり、失職もしていないのにその報酬を支給停止などすることはできない。
C 議員報酬は役務に対する対価であるから、身体拘束がされ物理的に議会に登院できない場合に限って、議員報酬の支給停止などを考えるべきだ。
お悩みへのアプローチ
地方自治法127条1項では、議員が被選挙権を有しなくなった場合には失職すると規定されています。そして、どんな場合に被選挙権を有しなくなるかについては、公職選挙法11条などに規定があります。例えば、公職選挙法11条1項2号では「禁錮以上の刑に処せられその執行を終わるまでの者」は被選挙権を有しないとしていますので、禁錮刑以上の刑が確定した場合には議員を失職することになります。
ところが、刑が確定するまでには時間がかかります。逮捕され、起訴され、そして裁判が行われます。この間、住民も議会もやきもきするに違いありません。裁判が確定して有罪が決まっても、科される刑の種類や違反した法律の規定によっては議員の身分をそのまま保持することができます。「ご迷惑をおかけした分、議員としてさらに頑張ります!」。そんな住民感情を逆なでするようなコメントでとどまる議員を誰も止めることはできません。こんな場合には、住民としては、次の選挙までは「我慢」するしかないのですが、我慢といえば、この議員の議員報酬です。議員報酬を一時的に差し止める(以下「支給停止」といいます。)条例を定めておかないと、議員報酬を支払い続けなければならないこととなります。地方自治法203条1項は「議員報酬を支給しなければならない」と規定しているからです。ただ、同条4項では、額や支給方法は条例で定めなければならない旨が規定されています。何らかの制限をする理由がある場合には、支給停止や不支給などを条例で定めることができることになっています。